第102話  中条と相馬

 

「てめーら!  糞太郎の優勝で騒いでんじゃねー!  次は俺様の番なんだぜ!」

相馬は帯をきつく締め直し試合場に向かう。

 

『ゼッケン65番、中条貴久、東京!  ゼッケン128番、相馬清彦、東京! 』

 

相馬は壇上に飛び上がった。
会場は大きく沸いた。
相馬の人気ぶりが分かる。

対するは、中央省庁勤務。
官僚空手家の中条だ。

この男には太郎もロベルトも敗れている。
相馬は弟子の敵打ちの立場にあった。

 

壇上ににらみ合う二人。

「よーやく、てめーを殺る時がきたぜ」

「相馬先輩、試合場では言葉はいらないでしょう」

「ちっ、そのへらず口を叩き斬ってやんよ」

 

中条は年齢で相馬の一つ下、太郎の二つ上になる27歳。
社会人になってから道場に入門しており、空手歴はさほど長くはないが、忙しい仕事であまり作れない稽古時間を、綿密に計算された選手練習により補った。
入門2年で東京都大会で優勝し、その後、全日本の上位に名乗りを上げた。

 

「(まさか、体重別全日本の決勝戦で会いまみえることになろうとは・・・)」

中条の目標の選手は相馬ただ一人であった。

格闘技好きな友人に連れられ観戦した第8回世界大会で、並み居る海外強豪選手をなぎ倒し、王者レオナルドと互角の戦いを演じた相馬に魅了され空手道場の門を叩いた。

華麗であり、見事なカウンターを駆使して大型選手を圧倒するその姿は、感動をしらない青年の心を打った。
尊敬の念は絶えず持ち続けてはいたが、あまり外交的ではない性格ゆえ、直接指導を仰ぐことはなかった。

そして、体重別全日本の決勝で相まみえる今、万感の思いを胸に秘め相馬に挑む。

 

相馬は相手の動きに合わせた組手を得意としているので中条もうかつに動けない。
しかし、相手が動かないと見るや相馬は大技を繰り出し相手の出鼻をくじく。

戦略でも相馬が一歩上を行っていた。
突然襲ってきた後ろ回し蹴りを高い位置でガードした中条だったが、刹那飛んできた飛び後ろ蹴りをあばらにまともに受け息をついた。

相手にダメージありと見るや相馬は下段、中段を繰り出し動きを止める。
中条は反撃を試みるも、有効な打撃を出すまもなく試合が終了した。

5-0
相馬の圧勝だった。

 

中条は壇上で相馬に手を伸ばす。
普段流暢に理屈をこねる中条だったが、言葉が出なかった。

先に口を開いたのは相馬だった。

「去年の世界大会。ヴィクトールとの戦いはなかなかのもんだったぜ。大和魂を見せてもらった。だが今回は相手が悪かったな。なんせ天才相馬だかんな」

中条は涙を浮かべた。
が、やはり言葉は出なかった。
丁寧に十字を切って、壇上を後にした。

 

相馬は中条を見送り、軽い足取りで試合場から降りた。
板橋道場生が集まる。

「相馬先輩!  やりましたね!」

「おう。まあ体重別だからな。たいして嬉しくねーぜ」

「また、強がっちゃって。今回は三人揃って優勝するんだって意気込んでたじゃない」

美雪にばらされ赤くなる相馬。

「ちっ、う、うるせー!」

にぎやかな道場生の中でやはりロベルトはなんだかうかない顔をしている。
太郎が優勝した時は、自分のことのように喜んでいたロベルトを見て、気の所為かと思っていたが、どうもそうではないらしい。

軽重量級の決勝が始まり、新人で茶帯の塩田と志賀が戦っている。
太郎はロベルトの重量級の試合が始まる前に原因を聞くことにした。
普段陽気なロベルトが不安を抱えているのは滅多に無いことなのだ。

「ロべ、どうしたんだ? お前らしくないじゃないか」

「……太郎。僕、決勝で……」

「ん? 決勝で?」

ロベルトは言いにくそうにしている。
太郎とロベルトのところに相馬が近づく。

「思いっきりやれや、ロべ!  それしかねーだろ!」

「相馬先輩……」

相馬にはロベルトの悩みがわかっているようだった。

「ん? どゆこと?」

「ちっ、この糞が!  お前はロべが置かれている状況がわからんのか!」

「お、押忍。ロべは前回チャンピオンだった訳でもないし、失うものもないような気がするのですが……」

「違げーよ!  失うのはロべじゃねー!  見ろ!  試合場の反対側で、葬式みてーな雰囲気で試合を待っている山岸をっ!」

「え?」

相馬に言われ試合場の反対側を見ると、山岸は真っ青な表情をしていた。
しかし、それは山岸だけではなかった。
山岸をとりまく総本山の面々も暗い雰囲気だ。

「あ!  ま、まさか!」

「やっと気づいたか!」

太郎は重要なことに気付いた。

 

第25回体重別全日本大会途中経過

 


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