第101話  入門初日の宣言

 

「俺っちもびっくりだぜ!  まさかあのへなちょこな太郎先生が日本一を決める戦いにのぞむことになろうとはっ!  しかもロベルト先生や相馬の大先生も決勝進出だ!  俺はなんて凄げーところに入門しちまったんだあー!」

正宗はカメラの前でハイテンションでしゃべりまくる。
壇上の前で試合を待つ相馬はうるさそーに正宗を睨みつける。

「うるせー野郎だな、本当に!」

「まあまあ、これが彼の仕事ですから」

太郎は相馬をなだめる。

「岩村さんの紹介じゃなきゃ、豚の餌にするとこだぜ」」

 

決勝を前に、相馬軍団は余裕の表情でウォーミングアップをしている。

各階級、決勝に進んだのは、軽量級は山城と太郎、中量級は中条と相馬、軽重量級は塩田と志賀、重量級は山岸とロベルトだ。

「ふふ、ついに相馬軍団による体重別全日本三階級制覇が現実になるなあ!」

「そ、そうなると嬉しいですね」

「馬鹿!  ここまできたら余裕だろ!  てめーの相手は格下の山城、俺は最強、ロべは糞太郎でも倒せた山岸だ」

「そうですね」

相馬は嬉々としているのだが、太郎は先ほどからうかない表情のロベルトが気になっている。
シャドーもそこそこになにか考え事をしているように見える。

「ロべ、どうしたんだよ。決勝戦だぜ。調子悪いのか?」

太郎は、ロベルトに話しかける。

「ううん、大丈夫ダヨ」

 

 

山口支部の道場生に囲まれ試合を待つのは太郎の三つ下、22歳の山城だ。
山城は、山口支部では初めて体重別全日本大会に出場した選手だ。
師範の横井は頼もしそうに試合前の山城を見守る。 

「いやあ、しかし、俺の道場から体重別の決勝進出者が出るとはなあ。びっくりだわ」

山城は横井に頭を下げる。

「そんな、師範。私は愚直に師範に付いていっただけですよ」

「そんなに謙遜するな」

横井は選手育成に熱心な道場が多い神覇館空手において、古き良き武道家を育てることを第一としてきた。
空手家としての基本、型、作法に重点を置いていたので選手タイプの人間はあまり出て来なかった。

そんな中、入門したきたのが高校生になったばかりの山城だった。
山城は師範の稽古の後で一人で黙々と試合に向けたトレーニングを重ねて来た。
そして横井の道場で初めて体重別全日本に出場したのだった。

体重別全日本のデビュー戦の相手は水河太郎。
太郎は年齢は山城より上だが、まだ茶帯でもない2年目だった。

あの日、試合が始まっても太郎は山城の攻撃に身動き一つしなかった。
山城は、勝利を確信したが、突然の女性の叫び声と同時に水河太郎は別人のような動きに変わった。
そして上段回し蹴りを喰らい、逆転負けを喫したのだった。

「ようやく水河に借りを返す時が来たな」

「押忍!」

 

 

『ゼッケン1番、山城隆仁、山口!  ゼッケン64番、水河太郎、東京! 』

 

両雄が壇上で再会する。
太郎は山城の体格の違いに気付いた。

「(あの時よりもだいぶ身体を作ってきたな。道着の盛り上がりが違う。だがそれは俺も同じだ。あの時は60kgなかった体重は、今や65kgまで上げたからな)」

試合が始まった。
太郎は様子見もせず山城に突進する。

「(ここまできたら小細工は無しだ。叩き伏せてやる! )」

太郎は山城のガードに構わず下突きの連打を浴びせる。
山城は捌くのがやっとの状態だ。

「(よし!  やはり、準決勝の津川選手よりも足腰が強くないぞ。このままもっていけそうだ)」

太郎は百裂拳を繰り出す。
山城は顔を歪めながら後退し、試合線の外にはじき出された。

 

『白っ!  開始線に戻って』

 

主審に促され、元の位置に戻る山城。
表情は暗い。

「(いける。このままパワーでねじ込んでやる)」

試合が再会され太郎は山城に突撃する。
が、突如飛んできた上段蹴りが太郎のこめかみにヒットし、太郎は膝を付いた。

 

『白っ、1,2,3,4,5……上段回し蹴りっ技ありっ! 』

 

なんと、太郎は山城の上段回し蹴りによって、技ありを奪われてしまった。

「ああ!  太郎の野郎、技ありを取られやがった!  油断したな!」

「オーノー!  太郎!」

相馬もロベルトも一気に表情が曇った。

 

「なんてこったい!  これが男と男の勝負!  時には残酷なセレナーデエー!」

正宗もカメラに向かって吠える。

 

試合が再会した時には残り30秒だった。
太郎に焦りの表情が浮かぶ。

「(くそー!  完全に油断した!  どうする? 百烈拳は有効だが技ありを取れるような攻撃じゃない!  二年前と全く同じ技を仕返しされるとは! )」

山城は当然にガードを上げる。
ここで技あり以上を取られなければ優勝が決まる。
太郎は対策も無いまま山城に突きの嵐を浴びせる。

「(くそっ、これだけガードを高くされては上段は無理だ……くそ!)」

太郎は山城のガードの高さを悔しそうに睨む。

「(考えろ、考えるんだ!  最後まで諦めるな! )」

 

太郎は思考を巡らす。

相馬の言葉を探す。

何か良いアドバイスがあったのではないか。

 

―――――「あれはな……ブラジリアンハイキックだ。通常は相手の顔面に真横から蹴り込むが、ブラジリアンハイキックは一度相手の頭の上まで蹴り足を持ち上げて、真上から襲いかかる」

 

「(はっ! )」

太郎の脳裏に相馬の言葉が浮かんだ。
いつのことかは思い出せない。
しかし、やるしかない。

太郎は、強烈な下突きから身体を後ろに反らせ、右ひざを高く抱え込む。
そして、膝を返して、山城のガードを超え、頭の真上から足の甲を蹴り落とす。

山城は予想しなかった蹴りを顔面に喰らい、そのまま倒れ込んだ。
数秒後、試合終了の太鼓が鳴ったときには審判の全てが一本勝ちの旗を上げていた。

 

『赤、1,2,3,4,5! 上段回し蹴り、一本!』

 

会場から割れんばかりの歓声が上がった。
太郎は、放心状態。

 

しばらくして、近づいてきた山城に気が付き、壇上で抱き合う。

「太郎さん……また負けてしまいました。まさかブラジリアンハイキックが飛んでくるとは思いませんでした」

「いや、山城さんも強かったです。僕は運が良かっただけで……」

 

壇上から降りると、相馬、ロベルト、正宗が飛んできた。

「てめー!  ついにやりやがったなあ!  体重別とはいえ、日本一になりやがった!」

「ぼ、僕が、日本一!」

「オー太郎、一体何の大会に出場しているつもりだったんダイ?」

試合場の傍には板橋道場の面々も集まってきていた。
撮影していたカメラマンや、ディレクターも喜んでいる。
正宗は泣きながら飛び上がっている。

「太郎君、やったなあ」

岩村も自分のことのように喜んでいる。

「太郎君、あずさにカッコいいとこ見せれたじゃん」

美雪が耳元で太郎に囁く。
あずさは少し離れたところで太郎を見ている。
太郎は、相馬の前でなければ、あずさに飛びついて抱きつきたかった。

あずさはゆっくりと太郎に近づいた。

「タロちゃん、入門当日、道場生の前で宣言したこと覚えてる?」

「へ?」

 

―――――――――「皆さん、先ほど全日本大会で活躍しろとのことでありましたが……男なら、もっと上を。私は……日本一になってみせます!」

 

「あ」

太郎は自分の言ったとんでもない自己紹介を思い出した。

「タロちゃん、凄いね。言ったことを現実にしちゃうなんて」

あずさは小声で太郎に言う。

太郎は言いたかった。
去年の世界大会の時に約束したことも現実にすると。
だが、言葉に出なかった。
あまりにも大きく困難な約束だったから。

 

第25回体重別全日本大会途中経過

 


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