大会二日目。
準々決勝に進出した各階級八名づつ計32名が壇上で紹介される。

軽量級準々決勝には山城、百瀬、宮地、津川、青山といった強豪選手達が残っている。
中量級には、相馬の他に久我や中条といった世界大会に出場した選手達。
志賀も無傷で進出。軽重量級は志賀の他に、野口師範の弟子の森の顔もある。
重量級は、山岸のほか、伴兄弟や高畑、ロベルトなど新鋭達が多く揃っている。

軽量級の準々決勝が始まり、正宗の予想通り、山城が勝ち上がった。
宮地は百瀬に競り勝ち準決勝進出。
そして、ベテラン津川が青山を下した。
太郎は、野々村という180cm近くある長身の選手を下段蹴りで下して準決勝進出。
津川との再戦を決め、2年前の借りを返すチャンスを得た。

結局、相馬軍団や志賀はみな準決勝進出を決めた。

 

太郎は準決勝の前にトイレで用を済ますことにした。
テレビマンたちに断りを入れ、トイレに駆け込む。

「緊張すると、トイレが近くなるなあ」

太郎が独り言を言いながら用を足していると、隣から激流のような音が聞こえて来た。

「な、なんだ?」

見ると、長髪に髭をはやし、ぼろぼろの服を来た大男が用を足していた。

「どうだ! 滝のようだろう!お前さんのは小川のせせらぎのようだなあ! ガハハッハハ」

「あわわ」

突然話しかけられ、太郎の小川のせせらぎは止まってしまった。
大男はこれまた豪快に手を洗い、服で手を拭く。

「(な、なんなんだこの人は? それにしてもでかい! 185cmはあるぞ。神覇館のOBの方かな?)」

「水河君よ!」

「はひっ!」

大男は太郎の名前を呼んだ。

「あ、あわ」

「ふふ、すまんすまん。俺は隠岐ってんだが、君の試合見せてもらったよ」

「(お、隠岐? どこかで聞いたことがあるな)そ、そうですか」

「軽量級にしては、なかなかのパワーだな。特にあの突きの連打は凄い」

隠岐は太郎の得意技『百裂拳』を褒めた。

「あ、ありがとうございます」

「だがなあ、お前さんは今後、無差別でも結果を残したいんだろ?」

「あ、も、もちろんです」

「ならな、もちっと戦法を考えなきゃならんな。パワーだけじゃ無差別では勝ち進めんよ。なんせ軽量級ってハンデがあるんだ。上段系を使っていかんとな。そう相馬に教わらなかったか?」

相馬の名前が出て、さらにビックリした。

「そ、相馬先輩には必殺技として、上段を習いました。軽量級の僕には必要だって」

「だろ? あいつは見かけによらずクレバーだからな。それなら、もっと試合で上段を組み込んでいかないと駄目だな」

と、そこに相馬がトイレに入ってきた。

「うおっ!  隠岐師範!」

「おー、相馬じゃねーか!  今、お前の話をしてたんだよ!」

隠岐は相馬の背中を叩く。

「わ、わざわざ島から来られたんですか?」

「そーなんだよ。不動の奴がたまには顔だせってうるせーからよ」

太郎はまたまたビックリした。
不動の奴。
そんなことを言える男がいるのか?

「そ、相馬先輩。この方は……?」

「ああ。この人は第6回世界大会王者の隠岐一郎師範だよ。総本山では不動先輩の先輩になる。今は、どっかの島で仙人みたいな暮らしをしてる……んでしたっけ?」

「せ、世界王者!」

第6回世界大会と言えば、不動の優勝した第7回の前の大会だ。

「仙人じゃねーよ。隠遁者ってんだよ。ボロ小屋に住んでんだよ。がははは」

太郎は隠岐を見上げた。

「(不動師範といい、レオナルド選手といい、この人といい……世界王者は人間離れしたような人ばかりだなあ)」

世界一になるというあずさとの約束がどれだけのことなのか、太郎に重くのしかかる。

「じゃあな相馬、水河君。応援してるぞ」

「押忍、隠岐師範。久しぶりにお会いできて嬉しかったです」

相馬は丁寧に十字を切って挨拶する。
先輩や師範達にも憮然とした対応の相馬だが、不動や隠岐、神館長には敬意を表するようだ。

「いやあ、あれが隠岐師範ですか。僕の名前知っててびっくりしました」

「俺も直接稽古をつけてもらったことはないんだがな。やっぱ、凄げーオーラだな」

「(相馬先輩でもビビる人がいるんだな)」

「そろそろ準決勝だろ!  とっとと準備しろや!」

「お、押忍!」

 

『ゼッケン33番、津川陽太、青森!  ゼッケン64番、水河太郎、東京! 』

 

太郎の準決勝が始まる。
相手は辻とともに軽量級の双璧を成していた津川だ。
二年前の体重別では準々決勝で対戦したが、宮地との死闘で力を使い果たした太郎はなすすべなく敗北した。 

「(二年前は準々決勝で身体が動かないくらいの状態だったが、今やほぼ無傷で準決勝の舞台に立っている。大丈夫だ)」

試合が始まると、津川は、持ち前のパワフルな攻撃を繰り出す。
突きからの強烈な中段蹴りが飛んでくる。

「(こ、これだ。これで以前は倒された)」

太郎は、蹴りに合わせ軸足を刈り、津川のバランスを崩す。
太郎は、先ほどの隠岐との会話を思い出した。

「(上段か……確かに最近はパワー重視の戦法で攻めることが多い。世界大会に出場しなかったし、無差別の大会に出てなかったからな)」

中盤、太郎は津川に百裂拳を打つ。
津川は顔を歪めて後退する。

「(パワーでも、もはや俺の方が上回っている。よし、いくぞ! )」

太郎は、再度百裂拳を放つ、津川のガードが下がる。
太郎は相馬に散々打ち込まされた突きからの上段蹴りのコンビネーションを繰り出す。
蹴り足は津川の顔面を捉えた。
パーンという音が会場に響いた。

会場からはどよめきが巻き起こる。

 

『赤、1,2,3,4,5!  上段回し蹴り、一本! 』

 

太郎は、強豪津川から上段回し蹴りによる一本勝ちを収めた。
ついに軽量級の二大巨頭の一角を崩したのだ。

津川は試合後、笑顔で太郎に近づいてきた。

「いやあ、凄いな。辻さんばりのキレーな上段だったね」

「押忍、ありがとうございます」

 

壇上から降りると、正宗がタオルを渡してきた。
もはや、太郎を見つめる正宗の瞳はハートマークが見えるようだ。

「かっこよかったっす!」

「あ、ありがと」

「ついに決勝戦ですね。俺っちの予想通り、山城選手ですよ」

「だな」

山城は、宮地を破って決勝に進出した。
二年前の体重別全日本、太郎に敗れ、一回戦で敗退した山城は試合後、太郎に言った。

――――――――「僕も、もっと稽古します。是非またお願いします、押忍!」

その言葉通り、山城は太郎の前に立ちはだかる。

 

第25回体重別全日本大会途中経過

 


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