第99話  こ、これが太郎先輩?

 

正宗と合流し、今回は四人で行動することに。勿論、テレビカメラも同伴だ。

「ちっ!  おい、正宗よ!  このカメラなんとかならねーのかよ!  うぜーんだよ!」

そう言って、カメラマンに蹴りを入れる相馬。
太郎は相馬は悪魔かと心底思った。

「相馬の兄さん。俺っちがいる限り、撮影は続きます。エバーカメラ」

「『バカめら』だと!  この糞芸人がっ!」

相馬に蹴り飛ばされる正宗。
カメラマンや強面のディレクターも表情が青ざめている。
こんな映像がゴールデンで使えるのだろうか。

 

太郎のゼッケンは、軽量級最後の64番。
よって、太郎の試合が始まるまで31試合が行わられることになる。

本当は、相馬やロベルトとわーわー言いながら様々な階級の試合を見たいところなのだが、番組のディレクターからのいろいろな希望を聞かなければならないらしかった。

「水河さん。総本山の百瀬選手の試合を厳しい表情で見ていただけませんか?」

「すいません。大阪の宮路選手の試合が始まりますので・・・」

太郎の周りには常にカメラが張り付いている。
正宗は、マイクを握りながら、太郎に話しかけていく。
さすが、ゴールデン番組。

 

しばらく有名どころの選手の試合がないタイミングで、太郎はトイレに駆け込んだ。
おちおち用も足せない。

太郎が男性用の便器の前に立って、チャックを下げると、隣に正宗が来た。

「いやあ、まいったよ。これ、二日間続くの?」

「いやー、太郎先輩。初戦で負ければそれまでですよ」

正宗の何気ない一言が、集中力の切れていた太郎に突き刺さった。

「(そうだよ。俺は何をしに来たんだ。世界大会後初の体重別全日本大会だぞ。次の世界大会へはばたくためには、絶対に負けられない戦いなんだ)」

「・・・太郎先輩?」

「ありがとう、正宗」

そういうと、太郎はトイレを後にした。

「太郎先輩。なんだかやる気スイッチが入ったみたいだな。・・・でも、手くらい洗いましょうよ」

 

試合が順調に進んでいた中量級、重量級では、相馬、ロベルトが快勝。続いて、太郎の出番となった。

 

『ゼッケン63番、鈴木賢祐、新潟! ゼッケン64番、水河太郎、東京!』

 

前大会準優勝の太郎の登場に会場が湧き上る。
それにしても、異常な盛り上がりだ。

「オー、太郎。凄い声援ダネ」

「確かにな。あの野郎は、ゴールデン番組でお茶の間を楽しませている奴だからな。これが、モスメディアの力か」

「それを言うなら『マスメディア』ダヨ。ハンバーガーじゃないんダカラ」

言い過ぎたなと、自らの口を押えた時には、既に時遅し。
録音用マイクに、断末魔の叫びが入り込んだ。

 

 

試合が始まると、鈴木は真正面から飛び込んできた。
太郎は、そこに前蹴りをカウンター気味で打ち込む。

と、鈴木の動きが明らかに止まった。
太郎は、一気に下突きの連打を放った。

防戦一方となった鈴木の顎(あご)に、太郎の膝蹴りが炸裂。
試合開始30秒で、太郎は一本勝ちを収めた。

会場は、本日一番のヒートアップ。
正宗は、マイクを握りながらも、言葉が出なかった。

「あ、こ、こんなに強いの?」

 

その後、太郎は、二回戦を中段蹴りで技あり優勢勝ち。

三回戦を怒涛のラッシュで完封。

正宗は、あまりの驚きに自分のキャラクターを出す余裕が無くなってしまった。

 

第25回体重別全日本大会途中経過

 


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