第98話  選手宣誓

 

いよいよ第25回体重別全日本の開会式が始まる。
広い会場に4つの試合場が設置され、それぞれの壇上には軽量級から重量級まで合計256人の強豪達が並ぶ。
優勝候補とされる太郎、相馬、志賀、ロベルトは各階級の一番後ろ右端に立つ。

神館長の挨拶が終わり、大会実行委員長で司会進行の野口はプログラムを進める。

『で、では、続いて、選手宣誓です。今大会選手代表は……第24回体重別軽量級準優勝の……水河太郎選手です! 』

会場がどよめく。
世界大会の代表や、全日本の強豪が揃っている今大会の代表が、前大会準優勝とは言え、まだ空手歴3年ほどの太郎だったからだ。
あらかたの予想は、全日本優勝の相馬、あるいは全日本優勝経験のある志賀だっただろう。
思わぬ名前が出て驚いたのは、板橋道場の面々も同じだった。

「ちょっと、今、太郎君の名前が呼ばれなかった? てっきりキヨがやるのかと思ってたけど」

美雪もびっくりした様子だ。

「タロちゃん? 凄い! 選手宣誓なんて」

あずさも興奮気味だ。

 

太郎は会場の空気が変わったことに気付きながらもゆっくりと選手達の前に進む。

そして、神館長の前に立つ。
近くで神を見るのは初めてだった。
それが、選手代表として会うことになるとは太郎は夢にも思わなかった。

太郎は神をじっと見つめる。
齢70を超えているとはいえ、その目は異様な輝きを放っている。
なにか食い殺されるような殺気。
太郎は負けじと見つめ返す。

「(こ、これが神館長か。湯気のようなオーラが身体中から沸きだしているようだ。表現するのが難しいが、何か……宇宙人を前にしているような感覚だな)」

神は真剣な顔つきから軽い笑顔になり、小声で言った。

「水河君よ。君はわしにメンチを切りに来たのかな?」

「はっ!」

太郎は館長を前にして、自分が宣誓をしにきたのをすっかり忘れてしまっていた。
気付くと会場がざわめいている。

「あわわわわわ」

太郎は軽く息を吸い込むと片手を上げた。

 

『宣誓! 我々選手一同は、武道空手道精神に則り、正々堂々と戦うことを誓います! 選手代表、水河太郎! 押忍!』

 

太郎が宣誓を終えると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

「君がキヨが見つけた太郎君か。ワシを前にして随分と時間を使ってくれたな」

「あわわわ……失礼しました」

太郎は緊張のあまり直立不動になっている。
神は、腕を組み、いたずらな笑顔を見せる。

「なんで弟子を取らないキヨが君を空手に誘ったか知っとるか?」

「し、知りません!」

「ふふ、木をな……全力でぶったたいたからじゃよ」

「き!」

「詳しいことはキヨに聞きなさい。また大会の進行を遅らせるつもりかえ?」

「はっ!」

太郎はまたもや自分が時間を取っていることに気付いた。
一礼をして、元の位置に戻る。

 

 

開会式が全て終わり、相馬が肩を叩いてきた。

「おい! てめーごときが随分と時間を使ってくれたなあ!」

「太郎! カッコ良かったヨ」

ロベルトも褒めてくれる。

「あ、ありがとうございます」

「ふ、だがこれで完璧に負けられなくなったな」

「お、押忍」

「まあ、いいさ。てめーら、今大会の目標、わかってんだろうな!」

「目標?」

「相馬軍団による三階級制覇だろうが! 俺らはトーナメントの端番をしょってるんだぜ! 昔、俺が言ってた事が、今回現実になろうとしてんだよ!」

「オー! そうだヨ! 三階級制覇!」

「そ、そうですね! 三階級制覇!」

 

第25回体重別全日本大会トーナメント表

 


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