第96話  相馬の風邪

 

例年に違わず、試合前日に大阪入りした板橋道場の一行。
いつものホテルで明日の決戦に備える相馬、太郎、ロベルト。

今年は正宗が同室で、岩村は別室になった。
新人芸人とプロデューサーという立場を考慮してのことだった。
岩村はそんなことはお構いなしなのだが、ディレクターその他のスタッフ達のことを踏まえて、とのことだった。

 

部屋に着くなり相馬はベッドに仰向けになり、ロベルトに背中をマッサージさせる。

「いててて! ロベッ! てめーは、力の加減を知らねーのか! うどんこねてるんじゃねーんだぜ!」

「ノー!」

相馬は仰向けのまま、ロベルトの後頭部を蹴り飛ばした。

「はは、相馬の兄さん、芸人になれますぜ! 『ベストファンタスティック相馬』なんていかがでしょうか」

正宗が不思議な決めポーズを決める。

「うるせーカス!」

「おっと、俺、嫌われてんな、ベストバッドマン」

「ったく! おい糞太郎! こいつの指導がなってねーぞ! ちっとも空手家らしくなってねーじゃねーか!」

とばっちりを喰らう太郎。

「お、押忍。失礼しました」

「相馬の兄さん。太郎さんは悪くないっす。ちなみに明日、テレビのクルーが来るんでよろしく」

相馬は、態勢を変え、ロベルトに肩をもませる。

「あん? てめーは出場しねーのに撮りに来んのかよ?」

「そっス。俺っちの先生である太郎さんが大会でバンバン勝ち上がるのを見て俺っちがビビる、みたいな」

「ビビるって、初めからビビんのが決まってんのかよ」

「それがテレビってヤツっす」

太郎の顔は青ざめて行く。

「テレビのゴールデンで僕の試合が……しかもバンバン勝てなかったらどうすんの?」

「てめーが、恥かくだけだぜ」

 

突然、相馬の携帯が鳴った。
大会委員長の野口からだった。

『もしもーし、相馬君?』

「押忍。相馬です。こんな夜に何事ですか?」

『いや、お願いしていたこと、忘れてないかなーと思って。確認の電話さ』

「お願い?」

『えーっ、頼むよお、相馬君。明日の選手宣誓だよ』

「あ、そうだった……」

野口は、明日の宣誓を相馬に頼んでいたらしい。

相馬は、ゆっくりと右目を細めた。
そして、太郎をチラと見て、悪魔のような笑いを浮かべた。
太郎は嫌な予感がした。

「の……野口師範。……実は、ごほっ、ごほっ、実は、風邪を……かなりでかい風邪を引いてしまったようで……」

『え? ええー! ちょ、ちょっと、大丈夫? 宣誓どころか、試合は大丈夫なの?』

野口の慌てふためく声が携帯から漏れる。
相馬は笑いをこらえるような表情を受かべる。

「だ、大丈夫です。全日本王者として……ごほほ、試合は逃げません。ただ……ただ、選手宣誓は……神館長の御前で、見苦しいところは見せられません……」

『そ、それでこそ相馬君だ』

「そこで……私の弟子の……太郎に、代わりに……宣誓を……ってのは、どうでしょう?」

「ええー!」

びっくりした太郎は、相馬を止めようとするが、ロベルトに羽交い絞めにされた。
息の揃った連携プレーだ。

『い、いや、それなら、戦績からいっても、元全日本王者の志賀君が妥当なのでは?』

「それは野口師範のおっしゃるとおりです。ですが、志賀の野郎が……ごほごほ、俺の代わりに宣誓をしますかね? 俺の補欠で?」

『むむ……たしかに……今からお願いする訳だから、その説明は伏せる訳にもいかないし……。プライドの高い彼は……拒否するだろうな』

「太郎は、前大会で準優勝です。宣誓をする資格はあるでしょう」

『……わ、わかった! 緊急事態だ。では太郎君にお願いするとしよう! 神館長には私から説明しとく。太郎君には相馬君から頼んどいてくれ! 』

「押忍。わかりました……えほえほ。すいません。さすがの私も病気には敵いませんで……」

『いや、いいんだ! 随分重い症状のようだが、出場してくれるだけでも。まさに空手魂だな。今夜は、ゆっくり休んでくれ。じゃあ、おやすみ』

「押忍、失礼します……ごほほほ、ほほほほほー」

相馬は、携帯を切った。

 

「ぎゃははははは、太郎よ! 大変なことになったな。てめーみてーな野郎が、全国から馳せ参じる256人の選手の代表で宣誓をすることになるとは! ははは、これじゃあつまんねー試合はできねーな」

「そ、相馬先輩ー! 勘弁してくださいよ! 僕が宣誓なんて……」

「いいじゃねーかよ。正宗の収録があんだろ。宣誓シーンなんてカッコいいじゃねーか。なあ、正宗よ」

正宗は大袈裟に相馬に敬礼した。

「さすが相馬の兄さん。おみそれしました」

「よし、これから宣誓の練習だ! 間違えんなよ!」

「そ、そんにゃ……」

突然の試練に、試合よりも緊張する太郎だった。

 

第25回体重別全日本大会トーナメント表

 


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