第95話  第25回体重別全日本大会開催

 

「太郎さん、何か飲みますか?」

「いや、今はいいよ」

太郎は、第25回体重別全日本大会参戦のため、大阪行きの新幹線で移動中だ。

太郎の場所より少し離れたボックス席では、ロベルト、あずさ、美雪、そして相馬が座っている。
「うるせーなあ」と文句を言いつつ楽しそうな相馬の声。
太郎はため息をこぼす。

 

「なぜ、俺はこいつと二人きりなんだ?」

「何か言いました?」

「……いや」

太郎はスモラバ正宗と横並びで座っている。
窓側の太郎は、ぼーっと外の景色を見ている。
さきほどから正宗は、とぎれることなく太郎に話しかけ続けている。
スポーツの話、政治の話からくだらない世間話まで。
そこはさすが芸能人。
話すネタの広さに太郎は感心していた。

「今回の大会の特集が載ってる雑誌持って来たんですが、見ますか?」

「ああ、見して」

正宗は自分のバックから『特報神覇館』を取りだして、太郎に手渡した。
太郎は、正宗に対する見方が変わってきているのを感じていた。
意外と気が効くし、先輩を立てる。
上下関係の厳しさは、芸能界も空手道も同じなのだろう。

「太郎さんは軽量級っすよね……ゼッケン64番か。これって優勝候補なんでしょ?」

「まあね」

「すげーなー! しかも相馬の兄さんは128番で中量級最後だし、ロベルトの旦那は256番で重量級のラストだ。皆、凄すぎなんですけど!」

ちなみに軽重量級の最後は志賀だ。
相馬も志賀も、半年前の世界大会の反省を踏まえ、最近はめっきり出場しなくなった体重別への参戦を決めた。

 

太郎はトーナメント表を眺める。
前大会優勝の辻は引退したので、前年度大会で準優勝だった太郎が軽量級の最後の場所である「64番」にいる。
大会結果を考慮し、野口師範を初めとする大会実行委員会がトーナメントの並びを決めるらしい。
最初や最後などのナンバーはシード的な場所であり、そうそう強豪にはぶつからない。
今回、太郎は準決勝辺りまでは有名選手とは当たらない。

「準決勝で津川選手か青山選手。決勝は……百瀬、宮地、この辺りかな」

「前回、青山選手といい勝負をした山城選手も侮れませんよ」

「へ?」

正宗はゼッケン1番の山城を指差した。
太郎の体重別デビュー戦の相手であり、前回はベスト8に進んでいる。
体重無差別で春に行われた中国・四国大会を制したことが評価され、ゼッケン1番の位置に据えられているらしい。

「なんでそんなこと知ってんの?」

「ふふ。俺っち、将来は実況の仕事とかやりたいんスよね。ほら、俺っちタバコと酒焼けでいい声になってっしょ。なかなかいい仕事すると思うんすよね。いろんなバラエティーやスポーツやニュースなんかのやるっすよ。そのためには過去のデータやら、選手の特性やらを調べることが重要になってくるんスよ」

「ほえー」

太郎は感心しない訳にはいかなかった。
ただチャラチャラしているだけの男ではなかったのだ。
将来まで見据えて生きている正宗に比べ、自分ときたら。

「ちなみに太郎さんの恋ネタもチェック済みっす」

「ななな!」

正宗はあずさを指さした。

「ずばり、ずばりんこ……でしょ」

「ま、参った」

「でも相馬の兄さんが邪魔で、公式にはラブれないっつー感じっすよね」

「じゃ、邪魔なんて!」

狼狽する太郎の耳元で、正宗は囁いた。

「しかも……『世界一になったら……』なんつー約束まで」

「おおい! なんでそんなことまで知ってんだよ! !」

太郎は思わず大声が出てしまった。
あずさやロベルトらが太郎のいる席に振り返る。

「あらら、太郎先輩、落ち着いて下さい。素敵な話じゃないですか。ガチで最高な約束ですよ! ……これは、ちなみにロベルトの旦那から聞きました。居酒屋で」

「あ、あいつ、やっぱり途中からずっと聞いてたんだな。しかし、よりによって、こんな奴にリークするとは!」

「でも、安心して下さい。相馬の兄さんにはばれてないんで。ばれたら横蹴りで反対車線まですっとばされてますよ」

正宗は相馬に蹴り飛ばされたことを根に持っているらしい。

「ははは。すいません、言い過ぎました。最近の電車内は禁煙ときてるんで、口が寂しいんですよ」

太郎は会場に付く前に、汗でびっしょりになってしまった。

「世界一になるために、まずは今回の体重別全日本大会で日本一っすね。次は秋の全日本で優勝。そんでもって、三年後の世界大会でレオナルドを倒して、あずさ先輩と……かあーっ、いい話だ」

「……海外選手まで知ってんのかよ。しかし……はあ、実現できなそ」

「いやいや、さすがにレオナルド倒すのは無理でしょ! ようするに世界一になるために努力しまくって、頑張りまくることに意味があるんすよ!」

「お前……随分とハッキリ言うなー!」

「いやー、禁煙で口が寂しいんすよ。モクモクモクモク、スモーキング」

 

 

すこし離れた席で、あずさと美雪は太郎らの話をしている。

「太郎君、あの芸人と仲良くやってんじゃん」

「そうだね。案外うまが合うんじゃないかな」

「でもさー、あいつ女好きっぽくない? あたし、すでに口説かれたんだけど。『美雪さん、相馬の兄さんみたいな不良よりも紳士で優しい私がお似合いですよ』……だって」

「えー! そうなんだ」

一連の会話を黙って聞いていた相馬は、おもむろに席を立ち、正宗のところへ近づいた。
ロベルトが必死に食い止めたのはいうまでもない。

 

第25回体重別全日本大会トーナメント表

 


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