第91話  再戦、世界王者

 

準決勝、第一試合。
アレクサンドルとヴィクトールの巨人対決。
人間離れしている力と力の対決。
試合場が小さく見える。
太郎は、見入ると同時に不安にもなる。

「凄い……俺のような小さい選手がどうやって、こんな男に勝てるんだろ?」

しかし、自分の隣に座っている男、相馬清彦がこの怪物達と同等以上に戦っているのだ。

アレキサンドルの得意の後ろ回し蹴りでヴィクトールは倒れた。
壮絶なKO劇でアレクサンドルは二大会連続で決勝に進出した。

 

『ゼッケン161番、相馬清彦、日本!  Number161 Soma Kiyohiko in Japan!  ゼッケン256番、レオナルド・フェルナンデス、ブラジル!  Number256 Leonard Fernandez in Brazil! 』

 

相馬は堂々と壇上に上がる。
マイケルに殴られた頬が赤く腫れている。

レオナルドを前にして、笑みを浮かべた。

「4年振りだな、レオナルド。嬉しいぜ、まだ世界のトップでいてくれて」

相馬とレオナルドの試合が始まった。

 

「ロベー、ついに相馬先輩が……俺達の相馬先輩が世界一の男と戦うんだな―!」

「うん、そうだネ」

「……ロベは複雑だよな。先輩と兄弟だもんな」

「いや、僕は相馬先輩を応援するよ。僕は相馬先輩に魅入って空手を始めたんだからね」

 

相馬はすり足でレオナルドの正面に進む。
レオナルドは構えを崩さない。
両者動かない。
四年前と同じだ。

相馬から仕掛けた。
相馬は軸足を返しながら懐の深いレオナルドに前蹴りを放つ。
レオナルドは左手で前蹴りを受け流そうとしたが、相馬は蹴りの軌道を変えた。
上段に変化した蹴りはレオナルドの顔面に襲いかかる。
レオナルドはギリギリで避けたが、相馬はそのまま飛び後ろ蹴りを打つ。
レオナルドは両手でガードするが後ろによろめいた。

大会始まって以来のレオナルドの後退に会場が沸きあがった。

 

「さすがだなあ、レオナルド。でも、どこまで逃げ続けられるかな?」

相馬の猛攻は続いた。
大技から大技のコンビネーションでレオナルドに襲いかかる。
受け中心のレオナルドの組手を崩す為だ。

「レオナルド、本気出す前に判定で終わっちまうぞ!」

レオナルドは積極的に前に出るが、相馬を捕まえることが出来ない。

蹴りで相馬がバランスを崩した瞬間、レオナルドは渾身の突きを放った。

「来たっ!」

相馬は待っていたかのように後ろに倒れ込んで、手をマットに付けてばねを利かせて蹴りをレオナルドの顎にヒットさせた。

 

「うわっ!」

「オー!」

 

あのレオナルドがバランスを崩したが、技ありにはならなかった。

しかし、レオナルドの口から血が滴る。
会場は大きく沸き上がる。

後半で徐々に勢いを上げてくるが、相馬優勢は変わらなかった。

本戦が終わり、判定になった。

会場は水を打ったように静かになる。
まさかの結果が出るかもしれない。

太郎もロベルトも判定に注目する。

副審4人の内、白が1本上がった。
相馬支持だ。
主審は引き分けとし、判定は相馬優勢の1-0での引き分け。

勝敗はつかなかったが、レオナルドに対して優勢の判定を出したことに会場はざわめきが止まらない。

「へっ、四年間は無駄じゃ無かったらしいな」

 

相馬は軽く飛び跳ねて延長戦に備える。
レオナルドは口の周りの血を手で拭い、大きく息を吐いた。

 

延長戦が始まる。
相馬はレオナルドの構えが変わったことに気が付いた。
レオナルドは両手を真っすぐ前に出し、正面を向いている。
相馬は表情が硬くなる。

スタンダードな構えではないが、相馬は攻め込む隙が見つからなかった。
そもそもスタンダードな構えは同等な体格同士では当然であるが、体格差が大きい相馬に対する時はそれが最大の効果があるとは限らない。
レオナルドは両手を前に出すことでさらにリーチが伸び、正面を向くことで足を打たせにくくしている。

レオナルドはじりじり前に出る。
相馬は試合線のギリギリまで追いつめられる。

相馬は回り込んで避けようとするが強烈な下段を受け、さらに前蹴りで壇上の下まで吹っ飛んだ。

 

下にいた太郎とロベルトが受け止めた。

「相馬先輩!」

「オー、先輩!」

相馬は二人の肩を軽く叩いて壇上に戻って行った。

 

相馬は、今受けた二発で悟った。

「(強かった。レオナルドはやはり強かった)」

相馬はレオナルドの周囲を回りながら、意を決して飛び込んだ。

「(だが、てめーの本気を引き出してやるよ! )」

 

相馬は突き、蹴りを連打する。
レオナルドの放つ技をかいくぐってカウンターを繰り出す。
冷静なレオナルドの表情も変化してきた。
楽しんでいるようにも見える。

今までの試合では見せたことが無いようなラッシュを見せる。

 

延長戦が終わり、判定5-0でレオナルドが勝利した。

 

壇上を降りた相馬に二人の弟子が駆け寄る。

「先輩ー!」

「おう……ふうー。悪かったな。気張りきれなかったぜ」

二人は涙でびしょびしょになりながら、相馬に抱きつく。

「なんだー!  気持ち悪りーな!」

そう言って二人を蹴り飛ばす。

「悪いが、少し一人にしてくれ……。3位決定戦が始まる頃にはここに戻ってくるからよ」

 

 

一度サブアリーナに立ち寄った相馬は、武道場の裏口から外に出た。
関係者もあまり立ち寄らない場所だ。

汗で濡れた道着からは湯気が出る。
近くのベンチに腰を下ろす。

房総の山々が眼前に広がる。
両手を後ろに掛け、タバコに火を付ける。

「ふー、2年振りに吸ったなあー……」

うつむいて煙を吐き出す。

「ふーむ。そんなにうまいもんでもなかったな」

そういうと、すぐにタバコの火を消してしまった。

「俺は、最高の状態で大会にのぞめたハズだった。でも奴には勝てなかった。奴を超えることは出来なかった。……世界大会の王座を日本に奪い返すことも出来なかったのに悔しさも無いしなー……ん?」

相馬以外誰もいなかった場所に一人の男が入って来た。

「……レオナルド?」

レオナルドはゆっくりと相馬に近づいてきた。

「……」

相馬は言葉を失っている。
つい先ほどまで死闘を繰り広げた男が、また自分の目の前に立っている。

レオナルドは何か言いたそうにしている。
そして、口を開いた。

「ロベルトノコトアリガト。ソウマツヨカッタ」

そう言って相馬の手を握って静かに去って行った。

「……ふん。わざわざそんなこと……わざわざセリフを覚えてきたのかよ」

相馬は軽く笑って、3位決定戦に向かった。

 

第9回世界大会途中経過

 


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