第90話  無敗の男

 

開始太鼓が鳴った瞬間に相馬がマイケルに突進する。
大きく踏み込んで飛び横蹴りを放つ。
しかも完全にマイケルの目を狙った冷酷な技だ。
マイケルは手を使わずに上半身を傾けてかわす。
相馬は着地すると、すかさずマイケルの足を払って転ばせ、残心をとった。

「Shit!」

マイケルは飛び起きて相馬の胸倉をくかむ。

「へっ!  どうしたよ色男。空手の試合中だぜ!」

主審に制止されて手を離すマイケル。
会場はこの無頼漢同士の戦いに湧き上がる。

 

「あの動きは人間じゃないな」

「凄い試合になりそうだネ」

 

今度はマイケルが相馬に襲いかかる。
突きの連打を繰り出すが、全て受けられ、カウンターの突きを脇に打ち込まれる。
蹴りも出すが、軸足を刈られる。

一方的にマイケルが仕掛ける展開ではあるが、相馬から積極的に攻撃を出さない。
手も足も出ない状態をマイケルに味あわせるように。

 

本戦が終了し、判定は相馬優勢の2-0で引き分け。
相馬が本気を出せば、あっけなく勝敗が付くところであった。

マイケルは目をひくつかせながら判定を聞いている。

「ふん、全米チャンピオンだか何だか知らねーが、こんなもんか。まだまだだな。次で蹴りをつけてやんよ」

 

延長戦が始まり相馬はマイケルの正面から突き、蹴りのコンビネーションで攻めたてる。
マイケルは応戦するが、スピードや技では相馬が一枚も二枚も上を行っていた。

中盤になり、明らかにマイケルの動きが鈍くなってきた。

「何だ、もう終わりかよ!」

相馬は勢いを増す。

と、突然マイケルは試合線の外に逃げ出した。

「なんだあ?」

会場もざわめく。
審判もマイケルに駆け寄る。

 

『どうした? 試合中止か?』

主審の声は、聞こえていないようだった。

すると、マイケルは両手で頭を抱えた。
そして、マイケルの大きな嗚咽が会場にこだまする。

その不気味な光景に潮が引いたみたいに会場は音を無くした。

「ちっ、何なんだよ!  気持ち悪りーな!」

 

「何だ、あれ。マイケル選手は大丈夫なのか?」

太郎がロベルトを見ると、表情が変わっていた。

 

試合場の中心に戻ったマイケルの眼は恍惚としていた。
視点が定まらない。

主審は試合再開させた。

直後、マイケルの前蹴りが相馬のみぞおちにクリーンヒットした。
相馬から思わず声が漏れる。

そのままマイケルは怒涛の攻めを見せる。
さきほどまでのダメージは無かったかのような猛攻。

相馬は態勢を立て直す間もなく、凌ぐことで精いっぱいになってしまった。

 

延長戦が終わると、判定はマイケル優勢の0-2。

相馬は主審に許しを得て道着を直す時間をもらった。
相馬には珍しい光景だ。
このわずかな時間を使って、相馬は再延長戦の作戦を練る。

「(何なんだ、あの野郎は。薬でも打ったような変貌。脳内麻薬か? どちらにしろ、ここでダメージを受ける訳にはいかねえ。次はレオナルドが待ってるからな! )」

 

再延長戦が始まった。
マイケルは勢いそのままに相馬に襲いかかる。
相馬は冷静にマイケルの動きを読み、カウンターを仕掛ける。

マイケルはスピード、パワーともに相馬を上回っているようだったが、その分動きが雑になっていた。
マイケルの技はいよいよ決まらなくなってくる。

と、マイケルは相馬の道着を掴んだ。

 

『こらっ、掴みは反則だぞ!』

主審の注意も無視し、マイケルは相馬の顔面に強烈なパンチを見舞った。
相馬はその場に崩れ落ちた。
壇上の四方にいる副審が駆け寄り、マイケルを抑えつけた。

 

『反則だ!  マイケルを反則負けにする!』

主審は大声でマイケルに言い渡す。
しかしマイケルはまだ相馬に襲いかかろうとしている。

 

「待てっ! 待って下さいよ、審判さん方……」

相馬はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
口からは血が滴っている。

「こんなんで反則負けは無いですよ。道着を掴まれたのも、顔面を叩かれたのは俺の不注意です。試合を続行させて下さい!」

「し、しかし……」

困惑する主審は神館長の方をチラと見た。

神は頬を軽くなでるとゆっくりと口を開いた。

「相馬の良いなら、それで良いぞ。試合は続行じゃ」

「お、押忍」

 

主審は館長の言葉に従い、試合を開始した。

マイケルは相馬に一直線で向かって行く。

「この糞野郎が! 死にやがれ!」

相馬は大きく右ひざを抱えあげて、マイケルの顔面に上段回し蹴りを炸裂させた。
最高のカウンターを受けたマイケルはそのまま頭からマットに沈んだ。

相馬の一本勝ちである。
会場からは今大会一番の歓声が上がる。

 

「へっ、てこずらせやがって!」

マイケルは意識が戻らないまま、担架で運ばれていった。

 

壇上を降りた相馬に太郎が飛びついた。

「相馬先輩ー!  カッコいいっす!  最高でした!」

「うわっ、てめー気持ち悪いんだよ!」

相馬は太郎にゲンコツをくらわした。

「ロべ!  何だったんだよ、あいつは」

「押忍。彼は追い詰められると、何か、脳内麻薬みたいなものを出すことが出来る見たいネ。今回の変貌は特に凄かったケド」

「そんなところだろうと思ったぜ。いちち、口の中が切れちまった」

 

これで相馬は自己最高の世界大会準決勝進出を果たした。

相馬は壇上近くのパイプ椅子に腰を下ろし、次のレオナルドの試合を観戦する。
対するはアメリカの強豪リチャード。

二大会連続でベスト8に入っているリチャードであったが、レオナルドを本気にさせることなく、試合は終了した。
レオナルドは判定勝利。

ここまでの試合全て僅差の判定勝ち。
誰もレオナルドの本気を見ることは出来なかった。

「レオナルドめ……そんな舐めた戦い方は出来ないよにしてやるぜ!」

 

第9回世界大会途中経過

 


NEXT → 第91話  再戦、世界王者   へ


BACK ← 第89話  ロベルトとマイケル へ


 

サブコンテンツ

このページの先頭へ