第88話  世界ベスト8への関門

 

第9回世界大会最終日。
試合は午後から開始される。

太郎は観客席から開会式を眺めていた。
板橋道場からは二名出場し、かつ二人とも最終日に残っている。

 

最終日、開会式が始まり、会場のボルテージも上がってきた。
壇上には激戦を勝ち抜いてきた32名が並ぶ。

世界最高峰の空手家達が居並ぶ中に相馬、ロベルト、志賀がいる。
太郎は胸が熱くなった。

「(俺は4年後の世界大会に出れるのか? その時には……28歳か。空手を続けているのだろうか。社会人になっているのだろうか? 俺は今大会に出なかったことで大きなチャンスを逃してしまったのではないのか?)」

思いつめたような表情で選手達を見つめる太郎を、あずさは心配そうに見ている。

 

 

午後になり試合が始まった。
ここまで来ると選手達も全員強豪だ。
試合も白熱したものになってくる。

第一試合のロシアのアレクサンドルは、ここまで全て豪快な一本勝ちで勝ち進んでいるが、ベスト32までくると簡単には勝てなくなってくる。
それでもデンマークの大型選手ハンス・ミケルセンから下段蹴りによる技ありを収め勝利する。

続いて元全日本王者の下村の登場に会場が沸く。
かろうじて優勢勝ちを収める。

前大会はベスト8には相馬一人しか入れなかったが、今回はもっと入るのではないかと太郎は思えてきた。

ここで波乱が起き始める。
ロシアの古豪ミハイルが、初出場イタリアのマルチェロに胴回し回転蹴りでの一本を奪われたのだ。
身長差10cm、体重差は20kg以上はあるであろう。
太郎の因縁の相手だが、小よく大を制する戦いに感心されられる。

そしてロベルトが、これまた元全日本王者の大岩を下した。
大岩は重量級のロベルトよりもさらに一回り大きいが、下段と膝蹴りで攻めたてられ敗退する。
ロベルトの実力は、すでに全日本王者レベルになっていたのだ。
ロベルトはベスト8が手の届くところまで来た。

相馬はアメリカジミー・スミスから華麗に勝利。
辻はロシアのニコライから上段回し蹴りによる一本勝ち。
これによって、第5回戦で相馬vs辻という好カードが実現することになる。

山岸は善戦空しく、アメリカのリチャードに敗退。
日本王座を奪還するという総本山の意地。
まさに鬼気迫る試合内容に太郎はため息を吐いた。

「今の俺では山岸選手に勝てないかもしれない。俺にはあのような鬼気迫るものがないんだ」

アメリカのドンJrを下した五十嵐はレオナルドとの対戦となる。
五十嵐が第一線から外れるきっかけとなった7年前の第32回全日本決勝戦以来の対戦だ。

 

 

いよいよベスト16、第5回戦が始まる。
ここで勝利すれば準々決勝に進める。
全日本や世界大会でベスト8に入るということは、神覇館の歴史に名を刻むということだ。
選手達の気合も変わってくる。

アレクサンドルvs下村。
下村もここまで好調だったが、世界2位との強さの差は大きかった。
中盤で後ろ回し蹴りを豪快に決められマットに沈んだ。
後輩の宮地の見守る中、担架で運ばれていった。
2mの大男の踵(かかと)が顔面にめり込むのだ。
太郎は恐怖すら感じる。
まさに死闘。

全日本に何度か参戦しているロシアのイワンは、ブラジルの古豪カルロを下してベスト8に入った。
ロベルトは昨年イワンを全日本で倒している。
太郎はロベルトとの間でさらに差が広がったように思えた。

イタリアのマルチェロの勢いは止まらず、元全日本王者の志賀をも胴回し回転蹴りで葬った。
全日本の若きエースのKOに会場は静まり返った。

そしてロベルトの試合が始まる。
相手はブラジルのヴィクトールである。
夏の体重別全日本大会の会場で、ロベルトに近づいてきたあの男だ。
二人は良く知った仲のようだが、試合場に上がったらそんなものは関係ない。
試合が始まると二人は壇上中央で構えを取る。

「Realmente quando o senhor conhecera em um anfiteatro uma flor.(まさか、お前と試合場の上で会うことになるとはな)」

「Eu sou surpresa, tambem.(僕もビックリだ)」

ロベルトは180cmあるが、ヴィクトールはさらに20cmも大きい。
ロベルトの得意の膝も効果が薄い。

突きせ攻めたてるが、ヴィクトールの前蹴り、膝蹴りの応酬に手が出ず、ベスト8を目前にして判定負けを喫した。

ロベルトはうなだれて壇上から降りてくる。

「相馬先輩、太郎、負けちゃったヨ」

「ロべ、入門から3年経たずに世界大会でベスト16に入ったんだ。凄いよ」

「ありがとう、太郎」

相馬はロベルトの肩を叩いた。

「初めての世界大会で納得の結果なんて出しちまったら、次どーすんだよ! いーんだよ腹八分くらいでな」

「押ー忍」

「なるへそ」

そして今大会最も注目されているのはアメリカのマイケル・ストラウスだ。
ブラジルのジョゼを上段回し蹴りで葬り、なんとここまでの試合唯一全て一本勝ちでベスト8まで昇り詰めて来た。

「なんだ、あのカス野郎は準々決勝まで行きやがったのか。ふふふ。俺様直々にぶっ殺せるって訳だ」

 

相馬は笑いながら試合場に上がって行った。
対戦するは、軽量級の雄、辻巧だ。
相馬は過去何度か辻と戦っているが、勝利したことは無い。

試合が開始すると同時に相馬は珍しく前に出て連打を仕掛ける。
辻はいつものように最小限のディフェンスで凌ぐ。

「ロベ! ああやって相馬先輩の動きを計算してんのかな?」

「そうだネ。だから相馬先輩は計算させまいと結構雑なラッシュをしてるんじゃないカナ」

「なるへそ、さすが相馬先輩!」

ラッシュをしながらも相馬は、回数こそ少ないが辻からの攻撃を全てカウンターで返している。

後半、辻の下段回し蹴りに対して、相馬は下段でカウンターに出た。
が、辻は下段から軌道を変えて上段蹴りを相馬の顔面に打ち付けた。
会場からは悲鳴のようなざわめきが起こる。
太郎もロベルトも声を上げる。

「うわーーー!」

「ノーーー!」

だが、相馬はそのまま態勢の崩れを胴回し回転蹴りに変化させ辻に襲いかかる。
辻はガードし、相馬は倒れ込む。

「い、今のは? 相馬先輩、上段を喰らってなかったか?」

「ダメージを隠す為にとっさに胴回し回転蹴りを打ったんだヨ。まさに天才……凄い!」

相馬は余裕の表情で起き上がる。

「ふう、そんな蹴りじゃあ俺は倒せませんぜ」

辻は笑顔を浮かべた。
辻にしても最後の掛けだったのだ。

相馬は辻への攻撃の手を緩めず、優勢勝ちを収めた。
二人は壇上で抱き合った。

「惜しかったッスね、辻先輩」

「ふっ、惜しくはないさ。ダメージがあったらあんな技は出せんだろ。それにレオナルドに立ち向かえるのは、日本ではお前くらいなものだからな。俺はこれで引退さ」

そう言って、辻は最後の試合場を後にした。

「最後の辻斬り……しっかり顔面に受けとめたぜ」

 

アメリカのリチャードがイギリスのヘンリー・ブライケルに勝利し、準々決勝進出を決め壇上を降りて来た。

拍手が鳴りやんだ後、会場にざわめきが起きて来た。
第5回戦最後の試合は五十嵐vsレオナルド。
7年前の第32回全日本決勝で死闘を繰り広げた二人。

相馬にとって全日本大会デビュー戦となった第32回全日本大会。
その準々決勝で相馬は、五十嵐に大差で敗退。
そして、相馬を破った五十嵐は、決勝戦でレオナルドと対戦。

互角の戦いは、ついに板割判定にもつれ込んだ。

そこで五十嵐は、前人未到の7枚割りに成功し、全日本の王座を守った。
自らの右の拳を、自らの空手人生を犠牲にして。

全日本の王座を日本人が死守すること。
相馬は、その試合に大きな感銘を受けた。

 

7年ぶりの五十嵐とレオナルドとの試合が始まった。
レオナルドの堅いガードもお構いなく、五十嵐は死に物狂いの猛攻。
未だ完治しておらず、本気で突くことが出来ない右の拳を連打する。

ドンJrに勝利はしたものの五十嵐には無傷のレオナルドと戦う体力は残ってなかった。
本戦で決着がついた。

結局ここまでレオナルドは本気を見せることはなかった。

 

【 準々決勝進出者 】

1   アレクサンドル・マレンコフ(30) ロシア     185cm 110kg
64  イワン・アレンスキー(23)    ロシア     190cm  95kg
80  マルチェロ・ジアーロ(27)    イタリア 174cm  80kg
97  ヴィクトール・ファオロ(26)   ブラジル 200cm 100kg
160 マイケル・ストラウス(24)    アメリカ 177cm  85kg
161 相馬 清彦(27)            日本   172cm  76kg
224 リチャード・カールトン(32)   アメリカ 191cm  98kg
256 レオナルド・フェルナンデス(28) ブラジル 187cm 105kg

 

第9回世界大会途中経過

 


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