第86話  レオナルド登場

 

『ゼッケン120番、ロベルト・フェルナンデス、日本! Number120 Roberto Fernandez in Japan! 』

ついにロベルトの出番が来た。
ロベルトは同じくらいの体格の大型選手と正面からぶつかり優勢勝ちを収めた。
太郎は同日に空手を始めたロベルトの世界大会での勝利を嬉しく思い、また悔しくもなった。

「ロべっ、おめでとう!」

「オー、ありがとう太郎!」

二人は抱き合って喜んだ。

「おいおい、まだ1回戦だぜ。大袈裟な野郎共だ」

 

世界大会は3日間開催される。
一日目は一回戦128試合行われる。

ゼッケン161番の相馬の試合が始まる頃には、夕方になっていた。
相馬は腕を組んで前の試合を見ている。

 

『赤、1,2,3,4,5、中段前蹴り一本! 』

ゼッケン160番。
アメリカのマイケルは前蹴りによる一本勝ちを収めた。
マイケルは壇上から相馬を見下し、反対側から降りて行った。

「あのカス、俺様に喧嘩うってんなあ!」

先日、マイケルに投げ飛ばされた相馬は、試合中に殴りこむのかと心配した太郎だったが、意外と冷静だった。

 

『ゼッケン161番、相馬清彦、日本! Number161 Kiyohiko Souma in Japan! 』

相馬は開始10秒でマイケルと同じ中段前蹴りで一本勝ちを収めた。
相馬は静かに壇上を降りる。

「太郎よおー、俺様があのマイケルの外道とぶつかるのはどこだあ?」

「お、押忍。えー、確か準々決勝です」

「ちっ、じゃあ無理か。あんなもんがベスト8まで来れねーわな。大会終わってからぶちのめすか」

「お、押忍」

激情型の相馬が珍しく静かに怒っている。

 

相馬はサブアリーナの方へ戻り始める。

「おい、ロべ。相馬先輩、相当お怒りだな」

「うん。あの静けさが怖いネ。まあ、マイケルは性格がちょっと……ネ」

サブアリーナに戻る途中で太郎らは目を疑った。

「へ?」

「あん?」

「オー!」

廊下の向こう側から日本の袴姿の外国人が歩いてくる。
髪は赤みがかったオールバック。
鼻の周りから顎にまで囲んでいる髭。

「ななな……なんだ?」

「ったく、今年もか」

「オー! リチャード! !」

ロベルトはその妙な男に近づく。

「オー! ロベルトー!」

二人は握手を交わす。

「ロベルト、ダイブ、ジャパニーズジョウズニナッタネ」

「リチャードさんに教えてもらったからだよ」

「オー、ロベルト。キミハオシエテイルトチュウデ、ジャパンエイッタネ」

またもロベルトの知り合いらしい。
太郎は相馬に尋ねた。

「押忍、あの武士みたいな方はどなたですか?」

「あいつはアメリカ支部のリチャードだ。毎回あんな格好で会場を徘徊してやがるんだ」

「に、日本好きなんですね」

ロベルトと楽しげに話しているのは、アメリカ支部のリーダーのリチャード・カールトン。
第7回世界大会第4位、第8回世界大会第3位。
ブラジルのカルロ、ロシアのミハイルと共に近年の世界大会を盛り上げて来た3大古豪の一人だ。

 

 

初日の試合を終えた相馬とロベルトは着替えをして、二階の観客席に移った。
今回も板橋道場から道場生達が応援に駆けつけていた。
岩村、美雪、そしてあずさが出迎える。

「キヨ、随分早く決めちゃったわね」

「ふん。相手が弱かったんだ」

岩村はロベルトの肩を叩く。

「ロベルト君、凄いじゃないか。とても初出場とは思えない堂々とした戦いぶりだったよ」

「押ー忍、ありがとうネ」

 

太郎は道場生達から少し離れたところに座った。
相馬軍団として試合に出れなかったとこで少し気おくれしていた。
そんな太郎の隣に座って来たのは、あずさだった。

「タロちゃん。どうだった世界の選手達は?」

葉月との一件以来、どうもぎこちない太郎だった。

「あ、お、押忍。す、凄かったです」

「……そう」

あずさは席を立った。

「(うわっ! 何だ? 俺の言い方なんか変だったかな? ま、まさか、葉月さんとの一件が、ばれたかな? ばれてたかな? あわあわあわ)」

太郎の困惑をよそに、会場がざわめき始めた。

「なんだなんだ? なにが起こるんだ」

その理由はすぐにわかった。初日最後の試合が始まるのだ。

 

『ゼッケン256番、レオナルド・フェルナンデス、ブラジル! Number256 Leonard Fernandez in Brazil! 』

 

会場のボルテージが上がる。

壇上にゆっくりとレオナルドが上がってくる。

浅黒い肌、軽く逆立った黒髪。
静かな目。
確かにロベルトになんとなく雰囲気が似ている。

187cm、105kg。
壇上が歪む、小さく見える。

 

「つ、ついに見れる。レオナルドの試合が」

太郎は身体の震えを感じた。
世界王者の試合が始まる。

 

相手も90kgくらいはある大型選手。
レオナルドを前にして攻撃を仕掛けることが出来ない。

しばらく見会った後、相手選手が攻め入る。
レオナルドは攻撃を受け、技を返す。
攻めは怒涛の攻めになって行くが、レオナルドも同じようなリズムで返していく。

レオナルドは後半にやや攻めに転じ優勢勝ちを収めた。
予想外の展開に太郎は驚いた。

「な、こ、これがレオナルドの試合か。あまり圧倒的じゃあなかったな」

「くっ!」

相馬は、目の前の手すりに拳を叩きつける。

「あの野郎! まだあんな戦い方をしてやがるのか!」

太郎は相馬が何故怒っているのかわからない。
ロベルトが太郎に近づいてきた。

「太郎。兄さんはね。相手に合わせて戦うんだ。相手よりほんの少し優勢にもっていって勝利を収める。だから誰も兄さんの全力を見たことはないんだ。少なくともここ数年はネ」

「そ、そうなのか?」

相馬の怒りは収まらないようだ。

「レオナルド……いつまでも頂上から見下ろすような立場じゃねーってことを思い知らせてやる」

相馬はすでに準決勝でレオナルドと対戦することを見据えているようだった。

 

第9回世界大会途中経過

 


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