第84話  第9回世界大会開催

 

その光景は、例年の全日本の時とは明らかに違って見えた。
総本山道場脇のだだっ広い駐車スペースには所狭しと大型バスが並んでいる。
世界各国の選手団を乗せて成田空港から来たのだ。

ド派手な衣装を着た応援団を引き連れていたり、楽団付きでやってきた国もある。
大会が始まる前から既にお祭り騒ぎだ。

全日本の時などは大勢人が集まってはいたが、選手もセコンドももの静かで緊張感を醸し出していたが、さすが世界大会となると雰囲気は一変する。

太郎は、岩村の運転する車の窓から身を乗り出して、インターナショナルな空気を味わう。

「す、凄い! こんな辺鄙な田舎に、こんなにもたくさんの国々の人達が集まるなんて! そしてこの大騒ぎ!」

「糞太郎! うるせーぞ! こちとら本番を前に緊張してんだぞー!」

「お、押忍。失礼しました」

と、相馬に注意されるが、当の本人は、バンの後ろでマンガを読みながら耳をほじっている。
とても緊張しているようには見えない。

ロベルトに至ってはいつものように大きないびきをかいて寝ている。

「やっぱり凄いな。一般人には出来ない」

「違うよ、この人たちが変わってるんだよ」

と、あずさ。
いつも通りに白く透き通る肌に、少し赤みを帯びた頬。
太郎は思わずにやけてしまう。

「4年後は、あずさの前でカッコいいところ見せなくちゃね」

助手席から後ろの二人に囁く美雪。
太郎は情けない気持ちになる。

「(はあ。こんな素晴らしい舞台に上がれないなんて。考えると落ち込んでしまう。次のチャンスは4年後なんだよなあ。俺いくつだ?……28か。仕事してんのかな? まだ、あずさ先輩と仲良くできてるのかなあ! )」

心の中で落ち込む太郎の掌につんつんと指さすあずさ。
太郎が横を向くと、にこっと笑っている。
太郎の心境を見透かして、励ましているようだ。
太郎は静かに燃え上がった。

「(4年後……例えどんな環境にあろうとも、あずさ先輩の為に、命がけでやってみせる! )」

 

 

午前10時。
開会式が始まろうとしていた。
一万人以上を収容出来る総本山武道場が、世界各国の人々で埋め尽くされている。
あちらこちらで様々な国の文化が見て取れる。

 

壇上には総勢256人の各国の代表選手が並ぶ。
壇上の外でその様子を見る太郎は胸が高まった。

「凄い! 壮観だ! いつもの全日本の時の128人が並んでも凄まじいのに、今年はその倍の256人。しかも外国の選手のでかいこと! 相馬先輩、志賀選手、辻選手……まさに日本代表なんだな。かっこいいぜ!」

右端先頭に立っているのは、前回大会準優勝、ロシアのアレキサンドル・マレンコフ。
身長は2m。
人間離れしたその体躯は他を圧倒している。

そして、左側一番後ろに立っているのは、世界王者、ブラジルのレオナルド・フェルナンデス。
ポルトガル系だが弟のロベルトよりも濃い肌色をしている。
背筋はすっと伸び、目をつむっている。

「あれが世界チャンピオンのレオナルドか……凄いオーラだな。そして武道家然としたあのたたずまい。不動師範といい、レオナルド選手といい、世界の頂点に立つ男ってのは染み出ているものが違うよなあ」

 

『今年で世界大会も9回目を迎えることが出来ました。これも神覇館を愛してくれている皆さまのおかげです。心より御礼申し上げます』

神館長が礼をすると選手達は皆、押忍の声とともに十字を切る。
押忍は、空手は世界共通語なのだと太郎は感激した。

 

いつもの大会同様に太郎は相馬、ロベルトの3人組で行動する。
世界大会は3日間を掛けて行われる。
初日は一回戦のみで256人から128人に絞られる。

二日目には二回戦、三回戦が行われ、三日目に残るのは32名のみ。
世界各国の代表256人の中から三日目に残ることがどれほどの険しい道のりなのだろうか。

 

早くも試合が始まろうとしている。
ゼッケン1番。
ロシアのアレキサンドルの登場だ。
相手も2m近くある大型選手だったが、さすが前回大会準優勝。
あっさり突きの連打で一本勝ちを収めた。
このパワーに太郎は驚いた。
全日本大会でこれほど重い突きを打った選手がいただろうか。

「ふん、さすがだな。ロシア選手のパワーは」

相馬も珍しく真剣に見入っている。

「だがな太郎、空手はパワーだけじゃねえ。お前は今回出場してねえんだ。その分、良く見ておけ! 今大会で何かを得るんだ。そして、4年後に活かすんだ」

「お、押忍!」

 

 

サブアリーナは武道場の隣にある選手達のウォーミングアップの体育館だ。
入口から入り右奥のエリアに陣取っているのはロシア勢。

エースのアレキサンドルは、勝利を収めた後、次の対戦相手の試合も見ずに真っすぐサブアリーナに戻ってきた。

アレキサンドルと談笑しているのはロシアの古豪ミハイル・ゲルツェンだ。
12年前に開催された第6回世界大会で第3位に入ってから3大会連続でベスト8に進出している強豪だ。
こちらも身長は180程ある巨漢だ。

ロシア勢で一番小さいのは身長172cmのニコライ・ルキアネンコ。
体重もロシア選手にしては軽い方だが、今年行われたヨーロッパ大会でアメリカのマイケルに次いで準優勝している。

ミットに向かって打ち込みをしているのは、全日本にも度々出場しているイワン・アレンスキーだ。
2年前の第37回全日本では辻に敗れたもののドクターストップに追い込んでおり、今一番期待されている。

ロシアからは10数人の選手が出場しているが、この4名を中心としている。

 

第9回世界大会途中経過

 


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