第81話  レオナルドの限界組手

 

―――――――――――――――約2年半前の2月の真冬日。

千葉県房総にある神覇館総本山にぞくぞくと屈強な男たちが終結する。
しかも、この日は武道場にではない。
古く狭い総本山道場にだ。

みな緊張の面持ちである。

 

黒帯を締めた男たちは一同は総本山道場二階の本道場に集まり始めた。
そして皆、正座をしてきれいに並ぶ。
総勢100名。
一番右端には相馬の姿もある。

 

しばらくして、神館長が現れた。
一同は起立し、一様に十字を切る。

「押忍!」「押ー忍」「押忍」

そして一緒に姿を見せたのは第8回世界大会王者レオナルド。
褐色の肌に、鋼の肉体。
身体中からは目で確認できるかのようなオーラが漂っている。
レオナルドが姿を現し、場に緊張感が張り詰める。

 

「皆、今日は良くこんな山奥まで来てくれた。感謝します」

館長の神が口をひらく。

「押忍!」「押忍」

「今日はレオナルド君の限界組手を行います。皆も当然知っていようが、一昨年の世界大会の王者です。外国人初のね。レオナルド君はとても強く、組手技術も素晴らしい。皆は胸を借りるつもりでやりなさい」

「押ー忍!」

そう、この日は、世界王者レオナルドが、神覇館空手最大の荒行『限界組手』に挑む日なのであった。
そして、レオナルドは外国人初の世界王者にして、初の外国人としての限界組手挑戦者となる。

セコンドには、後輩のヴィクトールが付いている。

 

黒帯を締めた対戦者たちは、組手を行うスペースを中心として、円を描くように座る。

「選手達は足を崩して下さい」

「押忍」「押忍!」

総本山師範の不動の号令で皆足を崩して胡坐(あぐら)になる。

最後部の相馬だけはもとより片膝を立てて座っていたが、文句を言う道場生はいない。
が、隣に座る山岸が注意する。

「おい、相馬! お前は良くこの厳粛な場でそんな態度でいれるな」

「あ? うるせー、バカ。どーせ俺のところまで回ってこねーよ。俺は100人目だしな。不動先輩だって90人くらいで終わったしな」

「あのなー、自分の番とかの話じゃねーよ。限界組手という神覇館の中でも……」

「山岸! 私語は慎め!」

不動に注意される山岸。

「な……押忍、失礼しました」

「ふふふ……面白れー」

「……貴様という奴は!」

 

 

そして、ついに、レオナルドの限界組手が始まった。

対戦時間は一人2分。
一本勝ちが出ればその場で組手は終わり。
休憩時間はなく、合間の時間は各選手が入れ替わる数秒のみ。

用意された選手は100人。
未だ、100人と戦い抜いた男はいない。
2年前に行われた限界組手では、大岩が43人、下村が48人で倒れている。
かつての最高記録は、6年前の不動の時で93人。
この時はすでに限界を超え戦い続ける不動を神館長が制止する形で終わった。

 

一人目は、黒帯を締めた重量級選手が相手をしたが、10秒もしないうちに、レオナルドの突きによる一本勝ち。
場にさらなる緊張感が走る。
連続組手とはいえ、こんな怪物とこれから戦わなくてはならないのだから。

 

10人、20人と順調に組手は進んでいく。
通常の選手ではこの辺りで失速してゆく。
が、レオナルドは段々と勢いづいて行くように見える。

順番を待つ選手達の表情は変わって行った。
一体どれほどの稽古をすれば、このように動き続けられるのか。

 

相馬は今回の限界組手の相手を自ら買って出た。
それは次の世界大会でのレオナルド対策の為だ。
2年前の世界大会の時は再延長戦まで戦ったとはいえ、圧倒的な力の差を味わった。
そして世界大会の王座を海外に奪われてしまった。

「レオナルド……次はねえぜ」

相馬は誰よりもレオナルドの組手に集中する。

 

50人を過ぎたころから相馬の顔にも焦りの色が見え始める。
レオナルドの勢いが全く衰えないからだ。

「おいおい……あいつはどうなってんだ? どんだけ体力があるんだよ。……に、人間じゃねえ」

 

70人、80人。
歴代の全日本王者達が超えられなかった壁を軽々とクリアしていく。

「く……」

 

90人を超え、動きにキレが無くなってきたものの表情は変わらない。

99人目の山岸との組手も終わり、なんと100人目の相馬の出番が回ってきた。

 

『100人目、相馬清彦! 』

 

不動に名前を呼ばれ、相馬がレオナルドと対峙した。
世界大会の時以来に顔を合わせる。
レオナルドはゆっくりと構えをとる。

レオナルドの目は死んでいない。

「(レオナルド……凄い奴だぜ。表情も態度も一貫して崩さない。辛い表情を見せない、意地を張り続ける。まさに神覇館空手道を体現していやがる)」

 

開始の合図と同時にラッシュを掛ける相馬。
そして、レオナルドの道着を掴み投げ倒す。

「こらっ! 相馬! 喧嘩じゃないんだぞ! 組手をしろっ! !」

不動の言葉も耳には入らない。これには見かねた道場生たちが相馬を制止する。

「離せっ、糞野郎共! てめーら情けなくねーのかっ! 神覇館の黒帯が連続して一人の男も倒せないなんて・・・」

道場生達は言い返せない。

館長の神が口を開く。

「清彦! お前の気持ちはわかるが、限界組手を汚すんじゃない! お前がどう戦おうが勝手だが、反則はするな」

神の言葉に唇を噛みしめ、ゆっくり頷く相馬。

 

そして試合が再開した。

相馬は、攻撃に手を抜かなかった。
だが、結局レオナルドを倒すことは出来なかった。

相馬との2分間の戦いが終わり、レオナルドは神覇館史上初めて限界組手で100人を達成した。
かつて誰も成し遂げられなかった場所に到達した。

その後、レオナルドの表彰式が行われたが、その場に相馬はいなかった。

 


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