第76話  掴め! 世界大会への切符!

 

第24回体重別全日本大会も早くも二日目。
各階級のベスト8が出そろった。

檀上には、32名の空手家たちが立ち並ぶ。

軽量級には、前回優勝の辻、準優勝の津川、青山、百瀬、宮路、そして太郎。

そこには、前大会同様、太郎の姿も。
だが、前回は出来過ぎた結果であった準々決勝進出も、今回はただの通過点に過ぎない。
今大会では、ここに居並ぶ軽量級選手の頂点に立たなければならないからだ。

開会式が終わると、早速、軽量級の準々決勝が始まった。
第一試合は、青山vs山城。
山城は太郎の体重別全日本大会デビュー戦の相手だ。
あの時は緊張して全く身体が動かずあっさり敗退するところを、あずさの一言で目が覚めなんとか勝利することが出来た。

「去年の一回戦で俺に敗退した山城さんが、今年は準々決勝まで上がってきたか」

青山と山城は一進一退の攻防を繰り広げている。
が、若きベテランの青山に一日の長があり、優勢勝ちを収めた。
緒戦からの熱戦に会場は大きな拍手で包まれた。

「凄い試合ですねー」

「おいおい、次はてめーの番だろが!」

相馬は太郎の尻に蹴りを入れる。

「はわっ、そうでした」

「相手はいつも総本山で出迎えてくれる百瀬だ。強敵だが今のてめーなら大丈夫だ」

「太郎! ファイトね」

「押忍! 行ってきます!」

 

『ゼッケン17番、水河太郎、東京! ゼッケン、32番、百瀬貫一、総本山! 』

 

壇上で対峙する二人。
百瀬は身長162cmと太郎よりも低い。
だが強豪揃いの総本山にあって、18歳の百瀬はぐんぐんと実力を伸ばしている。
百瀬の戦いは、コンビネーションをほとんど使わない。
強力な一撃で相手をなぎ倒してきた。

試合が始まった。
百瀬は大きな気合とともに強烈な突きを放ってきた。
受ける太郎の腕に痛みが走る。

「(なんて威力だ。こんな小さな身体でなかなかやるな)」

「はっ!」

百瀬は単発ではあるが、重い突きや蹴りを打ってくる。
太郎はその攻撃を受けつつ軸足に合わせる。
百瀬は軸足を打たれバランスを崩し始める。

「いいぞ太郎。奴は単発の攻撃ばかりだ。その攻撃のタイミングを崩せば怖い相手じゃない!」

「太郎、相馬先輩の軸足刈りをマスターしたのかナ?」

「ロべ、あの野郎が俺様の域に達してると思うか? 俺様のは芸術の世界よ。あいつのは美術の授業くらいだな」

「オー! 良くわからないけど、太郎頑張れ! !」

「良くわからねーだとお! この、木偶の坊があ!」

試合場の下でKOされるロベルト。

百瀬の顔に焦りの表情がにじむ。
試合が進み太郎は百瀬の攻撃に合わせて膝蹴りや下突きを合わせ始める。
そしてラスト20秒、太郎は、スイッチを入れて百裂拳を放つ。
百瀬は受けもままならない。

太郎は本戦で優勢勝ちを収めた。

試合が終わり、壇上で握手する二人。

「山岸先輩の敵を打とうと頑張りましたが、私では無理でしたね。どうぞ、あと2回勝って世界大会に行って下さい」

百瀬の笑顔を太郎は初めて見た気がした。

「押忍」

太郎は、檀上からゆっくりと階段を下りていく。

「あと2回か……まだ、いままで以上の強豪と2回も戦うのか」

軽量級の残りの試合は、津川は強力な中段で勝利し、辻も宮地を上段で葬り準決勝に勝ち上がった。

太郎がサブアリーナでシャドーをしていると、青山が近づいてきた。

「あ、青山選手」

「こんちは、太郎さん。凄いですね、あの突きの連打」

「なんだあ、このガキは! 消えやがれ!」

相馬は青山に蹴りを入れる。
この二人が話したのは初めてではないだろうか。
初対面の人間に蹴りを入れられるのは相馬だけだろうと、太郎は思う。

「っとと。相馬先輩、そりゃないですよ。僕は太郎さんに挑戦状を叩きつけに来たんですよ」

「ああ? そんなことしなくてもすぐ戦うだろうが!」

「違うんですよ。自分の得意な突きのラッシュと太郎さんのラッシュとどちらが勝ってるか、やってみたいんですよ」

青山は挑発的な目で太郎を睨む。

「ふん、このガキはこう言ってるがどうするよ、太郎」

「いいですよ。突きで勝負します。突きだけで」

「おっ! さすが太郎さん。さすが相馬軍団ですね。約束は守って下さいね」

そう言うと青山は去って行った。

「ちっ、なんてチャラい奴だ。太郎、あんな野郎との約束なんて守んなよ。隙をついて上段でのしちまえ」

「お、押忍」

「まあ、おめーのことだから馬鹿正直に突き合うんだろうな。まあ、いいさ。あのバカに打ち負けるようじゃ辻には勝てんからな」

「押忍」

太郎は自分が出場した東京都大会を思い出す。
青山はあのレジェンド五十嵐と真っ向から打ちあっていた。
自分は突き合いで青山に勝てるか?
だが、相馬の言うとおり、青山に打ち負けるようでは辻には勝てないだろう。

 

『ゼッケン1番、青山涼、東京! ゼッケン17番、水河太郎、東京! 』

 

太郎の準決勝戦が始まった。
と、同時に両者は激しく打ちあう。
蹴りは打つ気配が無い。
会場はこの突然の殴り合いに沸き上がる。
青山は身体全部を使って突きを打っているようだ。
それに比べ太郎の突きはコンパクトなものだ。

「(青山、まだ俺の突きは本気じゃないぞ! 受けてみろ、百裂拳を! )」

太郎は1分経過とともに百烈拳を放つ。
3連打、4連打、5連打。
いままでの突きとはスピードも威力も違う。
青山もこの連射には面喰った。

「(な、なんだ。この突きは! ただの張りぼての連打じゃないのか! 一発一発が早くて重い。だが、そう連続で打ち続けられる訳はない)」

しかし青山の読みはハズれた。
太郎の突きは勢いを増してきた。

「オー! 太郎! 残り30秒だヨー」

ロベルトの掛け声に太郎は突きを止めた。

「(なんだ? 突きを止めた?)」

青山は突然の間に驚いた。
しかし、呼吸を整えた太郎は一気に10連打を放つ。
青山は受けきれなかった。
思わず顔をゆがめた。
それが審判たちに技ありと取られた。
白い旗が上がった。

「(し、しまった)」

しかし青山には反撃する力は残っていなかった。
太郎の中段突き技ありを含む優勢勝ちとなった。
試合後、青山は太郎に抱きついた。

「いやあ、スゲー突きだ! 俺じゃ勝てないわ! 負けましたよ、太郎さん」

青山は太郎の肩をパンパンと叩いて、壇上を飛び降りた。

「い、いい奴なんだな、あいつも」

太郎は、ついに体重別全日本大会で決勝にまで昇りつめた。
茶帯であり、入門2年である太郎にとって、まさに快挙だ。
だが、ここで喜びに浸ることは出来ない。
辻は津川をも上段で倒してのけた。
なんとここまで全て上段回し蹴りでの一本勝ちだ。

太郎はこの辻を倒して世界大会への切符を手に入れなければならない。

 

第24回体重別全日本大会途中経過

 


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