第74話  ロベルトの謎

 

「太郎! 随分余裕でベスト8に進んだな」

相馬に肩を叩かれ、笑顔の太郎。

「押ー忍、楽ではありませんでしたが、うまく自分の組手が出来ました……ん?」

太郎は、スーツ姿で外国人風の二人がこちらを見ているのに気づいた。
一人は日本人にも見える。
170cm程で濃い眉毛、真っ黒な長髪。
もう一人は2m近くある長身で坊主頭、短い髭をたくわえている。
どこかで見たことのあるような。

 

しばらくすると、この二人組は太郎らに笑顔で近づいてきた。

「あわわ、こっちに来る。英語なら、ロベルトだよな。な、ロベ……」

「……」

ロベルトは固い表情を浮かべている。

 

二人はロベルトの前で止まった。

長身の男はロベルトの肩を叩いた。

「Roberto」

ロベルト。
その外国人は確かにロベルトと言った。
ロベルトは二人と知り合いらしく相馬らをちらと見た後、何やらしゃべり始めた。

「Roberto, eu sou um longo tempo. Tom e como?(ロベルト、久しぶりだな。調子はどうだ)」

「Isso e Victor …… muito tempo. Eu estou bem.(ヴィクトール……久しぶりだね。僕は元気だよ)」

「Roberto, Leonardo esta preocupado. Japao dieta que consiste em saber se o ajuste ao corpo.(ロベルト、レオナルドが心配してるぞ。日本の食事は身体に合うのかってな)」

「Jose, tambem apos um longo periodo de tempo. Refeicao japonesa e deliciosa.(ジョゼも久しぶり。日本の食事はおいしいよ)」

「Eu faco Japao …… O que e bom e mais o Brasil e os Estados Unidos?(ブラジルとアメリカと日本……どれが一番うまいんだ?)」

「Oh sim, eu sou do Brasil.(そりゃあ、ブラジルだね)」

「Minha mae ficou aliviada.(はははは、安心したぞ)」

「E da forma como Nunca foi ruim, bem, me sorte.(邪魔して悪かったな、まあ、頑張ってくれ)」
 
二人はロベルトと握手を交わし去って行った。

太郎は、ロベルトが英語でない言葉をしゃべっていることにビックリしている。

「おいおい、ロベ、あの人たちは誰だよ?」

「……」

太郎が質問するが、ロベルトは答えにくそうだ。

「何だ、言いにくいのか?」

「いや……彼らは……神覇館ブラジル支部の人間だよ。大きい方が、ヴィクトール。小さい方が日系ブラジル人のジョゼ・イトウ」

「つーか会話の中で、レオナルドって言ってたよな? あの世界王者のレオナルド?」

「……うん。レオナルドは……僕の兄だよ」

「えええええ! え、レオナルド……世界王者の! ロベルトは世界チャンピオンの弟なの?」

「ごめん、だまってて。隠すつもりはなかったんだけど」

「俺に気を使ったんだろ」

黙って聞いていた相馬が口を開いた。

「前の世界大会で、俺がレオナルドに負けているからな」

「あ、そうか」

「……押忍、スイマセン」

「謝ることはねえよ。今はお前は俺の弟子なんだ」

「押忍」

「あ!」

太郎は突然声を出した。

「そう言えば、ロベルトは相馬先輩に憧れて日本に弟子入りに来たんだよな。確かレオナルド選手との試合を見て。それって、ロベは弟として兄ちゃんのレオナルド選手を応援してたってこと?」

「うん、……3年前の世界大会で」

 

 

―――――――――第8回世界大会、準々決勝。
256人いた選手達は、8人にまで絞られた。
毎回上位を独占してきた日本勢はすでに新人の相馬清彦ただ一人になっていた。
全日本王者の下村、大岩らが敗退するなか、決して体格には恵まれていない相馬の活躍に会場は湧いていた。
しかし、準々決勝の相手は第7回世界大会3位、ブラジルのレオナルドだった。
ここまでの5試合も圧倒的な強さを見せ勝ち上がってきた。
すでに誰もが相馬の負けを予感していた。

ブラジルの選手達に交じって、レオナルドの弟のロベルトも応援に来ていた。

「Roberto. Seu irmao mais velho, tambem, finalmente, eu sou o campeao do mundo. Incomoda, nao esta la tem valido a pena veio dos Estados Unidos.(よお、ロベルト。お前の兄貴も、ついに世界王者だな。わざわざ、アメリカから来たかいがあったじゃないか)」

「Victor, ainda nas quartas-de-final. Para adversario mais forte a partir daqui, e nao um nao ir facil sobre?(ヴィクトール、まだ準々決勝だよ。ここからは相手も強いし、簡単にはいかないんじゃないの?)」

「Fall, estudantes de Harvard I Contato dura. Eu e Koyu quando nao pode dar ao luxo de positivo.(ふ、ハーバードの学生さんはお堅いな。こーゆー時はポジティブにいかないとな)」

「Eu escalei ate as quartas de final bem na outra Soma japones ou algo assim … que physique.(相手の相馬とかいう日本人…あの体格でよく準々決勝まで登ってきたね)」

「Urso, Ele e incrivel. Menos certo sentido Kumite para preencher a lacuna corpo. Voce e aquele cara genial. Bem, eu embora classe Ne ao Leonardo.(おう、あいつは凄いぜ。体格差を埋めてあまりある組手センス。天才肌ってやつだな。まあ、レオナルドには通用しねーけどな)」

「Un Fu ~, ou genio …(ふぅーん、天才か…)」

 

『ゼッケン199番、相馬清彦、日本! ゼッケン256番、レオナルド・フェルナンデス、ブラジル!Number 199, Soma Kiyohiko, Japan! Number 256, Leonardo Fernandez, Brazil! 』

 

「Oh, e comecar.(おっ、始まるぞ)」

「…… Irmao, Boa sorte.(……兄さん、頑張って)」

試合上に対峙する二人。
体格差は歴然としていた。

 

『構えて~、始めぃ!』

 

試合開始の太鼓が鳴った。
両者にらみ合い。
レオナルドは動かない。
相馬のカウンターを気にして様子を見ているようだ。

「Leonardo! Adversario 70 kilometers’ll’m decente cara, ir para esmagar o poder!(レオナルド! 相手は70キロそこそこの奴だぞ、パワーで潰しに行け!)」

レオナルドの先輩、カルロが声を上げる。
レオナルドは、下段を打つ。
しかし、相馬はカウンターの軸足刈りを返す。
レオナルドが突きを打てば脇に鍵突きで返す。

どの攻撃に対してもカウンターを返す。

「Leonardo! Ataque e no one-shot! Na e enganado! Eu quebro no poder.(レオナルド! 攻撃が単発になってるぞ! 誤魔化されるな! パワーで崩すんだよ)」

カルロの声に応えるように、レオナルドは突きから蹴りへの連続攻撃を放つが、ここからが相馬の真骨頂だった。

相馬はレオナルドの怒涛の攻めを回り込みで全て打ち消し、死角に入り突きを打つ。

ついに、本戦を引き分けに終わらせた。

ロベルトは驚きを隠せなかった。

「Eo que e que …, e que os japoneses! E impossivel retirar algo parecido com aquele par de maos que a disparidade corpo.(なんなんだ、あの日本人は! あんな組手をあの体格差でやってのけるのは不可能だ)」

 

2分間の延長戦に入った。
ロベルトは兄の応援よりも、小さな身体で縦横無尽な組手を繰り広げる相馬に魅入っていた。
延長戦はややレオナルドが勝っていた。

だが0-2でまだ決着は着かなかった。

「Incrivel wow! Victor, wow Na, e que os japoneses!(凄い凄い! ヴィクトール、凄いな、あの日本人は!)」

「Ei, voce nao esta fazendo para apoiar a outra parte. Bem, eu certamente. I porque Leonardo era todas as finais resolvido aqui. Alexandre da Russia de Finals. Eu nao posso nem machucar.(おいおい、相手を応援してんなよ。まあ、確かにな。レオナルドはここまで全て本戦決着だったからな。決勝戦はロシアのアレキサンドルだ。怪我も出来ない)」

 

試合はついに再延長戦に突入した。
相馬は体格差でのハンディが見えはじめたが、以前華麗なる組手を見せていた。
会場は相馬の一挙手一頭足に沸いた。

2分間の再延長戦が終わり、判定5-0でレオナルドが勝利した。
が、割れんばかりの拍手喝采は相馬に向けられたものであるようだった。
無論、ロベルトの拍手も相馬に向けられたものだった。

そして、この瞬間、世界大会の王座は初めて海外に流出することになった。

「Leonardo de cara, eu estava tendo problemas de longo.(レオナルドの奴、随分てこずったな)」

カルロは胸を撫で下ろした。

「Victor …… Karate, o que era algo tao bom.(ヴィクトール……空手は、こんなに素敵なものだったのか)」

ロベルトは目を輝かせている。

「O que Roberto. E que eu aviso lento. Iniciar, ou um karate.(なんだロベルト。気が付くのが遅いな。始めるか、空手を)」

「Soma ou ……(相馬……か)」
 
ロベルトは空手エリートの兄とは違い、格闘技には全く興味を示さなかった。
むしろ勉学に励み、高校を卒業した後はブラジルを出て、アメリカの大学に進学していた。

アメリカに戻った後、相馬への想いが消えず、大学を中退し、日本に来ていたのだった―――――――――

 

 

「……そして、俺は、あの日、板橋道場の前でロベルトに出会ったのか」

「そうだね」

太郎は、ロベルトに初めて出会った時のことを思い出した。

「ちっ! てめーらがくだらねー話するから、変なこと思い出しちまったじゃねーかよ!」

「お、押忍? な、何を思い出されたんですか?」

「うるせー! 明日は準々決勝だろーがー! 早く帰るぞー!」

相馬は太郎とロベルトの尻を蹴りあげる。
そして、弟子を先に歩かせ、後ろで物思いにふける。

「(……もう、あれから3年も経つのか……)」

 

 

 
―――――――――準々決勝。レオナルドとの試合を終え、壇上から降りた相馬は不動の前で泣き崩れた。

「すいませんでした…俺のせいで、俺のせいで、不動先輩が、隠岐師範が、先輩方が守ってきた世界大会の王座が…海外に!」

壇上の下で相馬を応援していた不動は笑顔で応じる。

「何を言っているんだ。キヨ、立派だったぞ。誰もお前を責めまい。それに王座が日本を離れることで神覇館はますます発展して行くんではないか?」

「押忍、先輩ぃ、ありがとうございます」

「だが、まあ、全日本の王座は守ってくれよ。日本の意地を示して行くのは全日本大会だな」

「…押忍。不動先輩。うう、ぜ、全日本の王座は俺が必ず守ります!」

「ふ、キヨ。期待してるぞ」

「お、俺が、絶対に、守ります」

相馬の目には、炎が宿っているようだった―――――――――

 

 

「中学を卒業した後、不動先輩に初めて会った時、日本人による世界大会の王座死守をあんなに馬鹿にしていたのにな。ふふ、変われば変わるものだな……」

相馬は頬をポリポリと掻き、弟子達の後を歩いて行く。

 

第24回体重別全日本大会途中経過

 


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