第73話  太郎の快進撃

 

『ゼッケン17番、水河太郎、東京! 』

 

太郎の一回戦が始まった。
緊張はあるが、昨年の同大会のような「やるだけやってやる」という気持ちはない。
太郎は勝利を義務付けられた位置にいるからだ。

 

相手は愛知支部の落合。
太郎と同じ茶帯だ。
身長も同じくらい。
かなり表情は硬い。
それもそのハズで、向こうからすれば太郎は前年度大会でベスト8に食い込んだ強豪なのだ。

大きな気合と一緒に攻め込んでくる落合。太郎は下がりながら冷静に捌く。

「(もう分かった。実力差はある)」

太郎は下突きを打ち始める。
一発づつ性格に。
相手の顔が歪む。
効いている。

 

「太郎の野郎、随分と攻撃力が上がってきたな」

「そうだネ。この頃の太郎の突きは早くて痛いヨ」

 

落合は太郎の下突きを受けるので精いっぱいになってきた。

「(よし、打つぞ! )」

太郎は下突きの連打を放つ。
百烈拳だ。
重く早い突きの嵐に落合はなすすべなく膝を着いた。

 

『白っ、下突き、一本! ! 』

太郎の一本勝ち。
最高の出だしだ。

「おー! 太郎! てめーいつの間にあんな連打を身につけやがったんだよ」

「太郎、凄いネ」

「押ー忍、ひそかに稽古してました」

相馬は、ふふっと笑った。

「ふん。糞太郎の分際で生意気だが、それでいい。お前は来年黒帯を巻くんだろうからな」

「押忍」

相馬は、少し考えるようなそぶりを見せ、口を開いた。

「太郎、茶帯と黒帯の差は何だと思う?」

「押ー忍、強さですか?」

「ちっ、何だよそのしょーもない答えは? 茶帯と黒帯の大きな違いはなあ、自分独りで考え、稽古出来るかどうかなんだよ! 茶帯までは生徒だ。だが黒帯を取ったら自分独りで空手道を進んで行けるようにならねーと駄目なんだ」

「えっ? では黒帯を取ったら、相馬先輩の稽古を受けることは出来なくなるんですか?」

「へっ、昇段しても俺様のシゴキは続くぜ! だがなあ、世の中何が起こるかわからんだろーが! だから常に自分で考え、行動出来るようにしとくんだぜ! ロべ、てめーもだ!」

「押忍」

「押ー忍、わかったヨ」

 

 

二回戦、北海道支部の村井。
まだ20歳にもなっていなそうな若者。
上段系の大技を華麗に打ってくるが、全て単発で当たりそうにない。
太郎は一回戦同様下突きの連打だけで本戦優勢勝ちを収める。

 

 

三回戦、過去軽量級でベスト4に入ったこともある強豪、鳥取支部の鮫島。
ベテランの黒帯だが波に乗っている太郎の敵ではなかった。
今回は下突きに順突き、逆突きも加えた突きの猛攻で本戦優勢勝ち。

見事に二日目、準々決勝進出を決めた。

 

昨年は瀕死の状態で一日目を突破したが、今回は怪我らしい怪我もない。
太郎は、自分が随分と強くなったなと実感出来た。

「太郎め。知らねーうちに随分突きを自分のものにしてやがるな。一見無茶苦茶に打ってるようだが、全てが腰の入った良い突きだ。あの野郎、かなり打ち込んできたな」

「オー、太郎。志賀選手に負けてからまた一段と空手にのめりこんでいったネ」

「ふん。だが本番はここからだ。宮地の糞チンピラや、青山の糞ガキ、百瀬の糞ハゲ、津川の糞野郎、そして辻の糞スカシ……糞どもが待っとるぜ」

「……相馬先輩、ボキャブラリーが……」

「なんだと! この糞デカブツがっ! !」

「ノー!」

太郎が試合場から戻ると、何故か相馬が倒れたロベルトの上に座っていた。

 

第24回体重別全日本大会途中経過

 


NEXT → 第74話  ロベルトの謎 へ


BACK ← 第72話  第24回体重別全日本大会開幕 へ


 

サブコンテンツ

このページの先頭へ