第72話  第24回体重別全日本大会開幕

 

道着に着替え、試合会場に向かう太郎。
セコンドにはすでに世界大会の出場を決めている相馬とロベルト。

今年の大阪は特に暑かった。
6月とは思えない猛暑だ。

 

初日、太郎は少し心に余裕があった。
それは準々決勝までは有名選手にぶつからないからだ。
前年の体重別でベスト8、全日本ではベスト32に進んでいる為か、トーナメントでも端の方の番号になった。

しかし、今大会はいままでのようにベスト8に入れば良いという訳ではない。
目指すは世界大会の切符が手に入る優勝のみだ。

「おう、覚悟はできたかよ!」

相馬がにやけながら太郎の頭に手を置く。

「押忍、やるだけのことはやってきたつもりです」

「ふ、確かに。よくぞ俺様のスーパーデンジャラスな稽古についてきたな」

「お、押忍」
 
そう。
太郎は昨年の全日本後、かなり濃密な稽古を続けてきた。
今までのようにただただスタミナをつけるとか、ひとつの技に磨きを掛け続けることはもちろん、加えて技から技へのコンビネーションの練習を徹底してきた。

突きの連打からスムーズに蹴り技までつなげる。
そんな稽古を延々と繰り返してきたのだ。
なかでも特にやりこんできたのは突きの連打からの上段回し蹴りだ。

「いいか太郎。初日は上段は使うなよ。準々決勝以降に取っておくんだ」

「押忍。わかってます。初日の戦い方はすでに考えてあります。試したいことがあるので」

「ほ、生意気な野郎だな。まあ、今のお前なら無名選手に負けることはないだろ」

「押忍……ちょっと、トイレ行ってきます」

「ったく、試合んときはいつもトイレだな」

 

 

太郎が用を足そうと便器の前に立つと、隣に大男が来た。
総本山の山岸だ。
山岸は全日本で太郎に敗れ、体重別重量級で世界大会の切符を手にいれなくてはならなくなった。

「む、水河」

「お、押忍。山岸先輩」

山岸は、顔を正面に戻した。

「……あずささんとは、どうなんだよ」

「はえっ?」

「……勘違いすんなよ。俺は今だ未練があって聞いてんじゃねえ。その、き、気になるからだよ」

「(それが未練というのでは)お、押忍。実は、その、良くわからないです」

それは本当だった。
付き合っている訳でなし。
二人で出掛ける訳でもない。
あずさと太郎。
良く分からない状態なのだ。
お互い恋ごとには奥手である。
ただお互いが惹かれあっているのはなんとなく感じ取ってはいるのだが。

「ふん。すまないな、変なこと聞いてよ。まあ、お互い頑張ろうな。お前は重量級元王者の俺を倒したんだ。軽量級なんて楽勝だろ?」

「お、押忍。頑張ります」

山岸は先にトイレを後にした。
緊張の為か、太郎は全く出てなかった。

「気が小さいな、俺は」

トイレの外から相馬と山岸の大声の応酬が聞こえてきた。
いつもとおりだ。

 

実は、太郎には相馬らに内緒で密かに稽古してきた技があった。
それは、ロベルトと腹の叩きあいをしているときに思いついたものだった。

 

―――――――――いつものようにお互いに下突きを打ちあう。
先に参ったをしたほうの負けだ。
初めはすぐに根を上げていた太郎だったが、最近ではロベルトに落とされなくなった。
ほおっておくと何十分でもやり続けるので相馬が止めるようになった。

下突きは3発づつ打つのだが、ある時、太郎は突き3発は流れるように繋がった感覚になった。
ただの3連打ではない。
一呼吸というか、ひとつの突きの流れが3発というか。

何か、凄いものが身につきそうな予感。

太郎は一人になった時にその場で空打ちを続けた。
やはり、その中の何回かは流れるように続く時があった。
一発一発も腰の入った確かな突きだ。

太郎はその日から独りで空打ちに没頭した。
そのうちこの流れるような突きの連打を4連打、5連打と打てるようになったきた。
そのうちサンドバッグにも打ってみるが、今度は空打ちと違い上手く突きが繋がらない。

何度も何度も繰り返し、ついに太郎は5連打以上の突きを会得した。
太郎はこの技を『百裂拳』と名付けた―――――――――

 

「ただのラッシュではないぞ。これは全てが体重の乗った生きた突きだ。体重別で試してやる」

相馬の前で披露しなかったのは、ひとつくらい自分発の技を身につけたかったからだ。
相馬に相談すればもっと精度や攻撃力を上げることもできたであろうが、太郎には小さなプライドが芽生え始めていた。

 
「あいかわらず遅せーな!」

相馬が腕組みをして仁王立ちしている。
待たされるのは大嫌いなのだ。
相馬は太郎の肩に腕を回した。

「そろそろだな。一緒に行こうぜ! 世界にな!」

「太郎! 頑張ってネ!」

「押忍! !」

仲間達の声援を受け、太郎の一回戦が始まる。

 

第24回体重別全日本大会トーナメント表

 


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