第68話  日本一の栄冠

 

「(まだだ! まだ、勝てない! )」

志賀は1年間、体格差を利用して攻める稽古をしてきた。
相馬よりも勝っているのは体格しかない。
体重も全日本に合わせ90kgまで上げた。
しかし、相馬には力任せの組手は通用しなかった。

身体が大きくなり動きが鈍くなったと見るや、相馬は志賀の正面には構えず、絶えず死角に回り込み攻撃を仕掛けてきた。

 

終わってみれば、本戦での優勢負け。
全く相手にならなかった。
KOされなかっただけましというものだろうか。

相馬は「まだまだだな」と言い、壇上を降りた。
志賀は天を仰いだまましばらく動けなかった。

ようやく試合場に立ち尽くす志賀に辻が声を掛ける。

「さすが相馬だな。俺も相馬に勝ったことがあるが、いまではとても敵いそうにないな」

「……押忍。相馬先輩は強かったです。本当に。僕も認めざるを得ません。どうやら恨み妬みで勝てる相手ではなさそうです。それに今回はKO負けじゃない。ガチンコ勝負でも勝てなかった」

「ふ。相馬はもうしばらく第一線で活躍するさ。チャンスはまだある」

「押忍……」

 

 

決勝は、下村と相馬の戦いとなった。
相馬にとって下村は勝てたことがない目の上のたんこぶだった。
過去3回戦い、3回敗れている。
下村の組手は大きな身体を活かしたパワーファイトに加え、隙を突きた上段系の大技も繰り出す。
志賀などのきれいなまとまった組手ではない、野性の戦い方は相馬が苦手としているところだった。

「相馬先輩、ついに決勝ですね!」

「おう。やっと、あの憎たらしいヒゲデブをぶちのめす時が来たか」

「何か作戦はあるんですか?」

「はあ? 糞太郎よ。お前はそんなんだから志賀ごときにも勝てんのよ。全日本は年に1回なんだぜ。この日に向かって1年間何を考え、何をしてきたかが問われる。生半可な作戦じゃあ頂点はとれねーぜ」

「お、押忍。失礼しました」

「まあ、決勝は気が楽だわな。次の試合のことなんて考えないでいいからな」

3位決定戦が終わり、ついに決勝戦が始まる。

 

大阪支部の道場生達のボルテージも上がる。

「下村先輩! やっちゃって下さいよ」

「おう。やっと、あの憎たらしい糞野郎をぶちのめす時が来たか」

「今大会は来年の世界大会の前哨戦ですからね。今大会の王者が日本のエースって訳ですわ」

「おう、宮地。お前も来年夏の体重別勝って、代表決めんとな」

「押ー忍!」

 

会場にファンファーレが鳴り響く。

 

『これより、第38回全日本大会決勝戦を始めます! ゼッケン64番、下村秀樹、大阪! ゼッケン128番、相馬清彦、東京! 』

 

二人の主役が壇上に上がる。

「ロべよー。ついに相馬先輩が全日本を制覇する時が来たな!」

「オー、大丈夫ヨきっと」

試合開始と同時に二人は正面から激しくぶつかった。
体格でハンディーのある相馬だが回り込むことはしなかった。

「(なんや、こいつ。俺相手に正面から当たってくるとは?)」

下村は重い突きを連打するが、相馬もカウンターを打ちつつ、突きを連打する。
下村は息もつかせぬ猛攻を見せるが相馬は一向に下がらない。

「(そんなバカな。こいつはこないに腰の強い奴じゃなかったハズ)」

下村は下段を相馬の足に叩きこむが、効いていないようだ。

「下村ー、俺様がいつまでも弱点をほおっておくと思うか?」

相馬は試合中にもかかわらず、声を出した。

 

『相馬っ、試合中に私語は慎め』

主審の注意もそっちのけで相馬は続ける。

「お前に敗れた2年前の全日本以降、俺はスクワットに相当な時間を費やした。弟子を見てる時以外はほとんどな。お前ごときには力負けしない。技とパワーが合わさった俺に、お前如きが敵うわけねー!」

「くっ!」

相馬は下村がうろたえた表情を見せた刹那、素早く死角に入りこむ。
下村が振り向いたときには、その顔にカウンター気味に上段回し蹴りがめりこんだ。
下村はそのままマットに沈んだ。

 

『赤っ! 上段回し蹴り、一本!』

会場が沸きあがる。
ついに相馬が全日本王者に輝いたのだ。

 

「相馬先輩ー!」

「オー、ついにチャンピオンネ!」

「オー、やっとだな」

あずさや美雪らも相馬の元に駆けつけた。

「お兄ちゃん、おめでとう!」

「キヨ、やったね」

「ふん。全日本王者ごときでうるせーな。俺様が目指すところは世界王者のみよ!」

相馬は神覇館史上初めて、中量級の身体で無差別の全日本大会を制した。
そして、今大会ベスト8に入ったものは1年後に行われる世界大会の代表選手となる。

日本からの世界大会代表への切符は最大12枚ある。
残りの4枠は来年夏に行われる第24回体重別全日本の各階級優勝者のみに与えられる。

太郎が世界大会に出場するにはこの大会を制さねばならない。
軽量級は、辻、津川、宮地、青山、百瀬などの強豪がひしめいている。

果たして太郎は世界大会への切符を手に入れることができるのであろうか。

 

  第38回全日本大会結果

優 勝  相馬 清彦(26)
準優勝  下村 秀樹(30)
第3位  志賀 創二(23)
第4位  大岩 和雄(32)
第5位  中条 貴久(25)
第6位  ロベルト・リベイロ(23)
第7位  伴 信一(24)
第8位  伴 孝二(22)

 

第38回全日本大会結果

 


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