第67話  深夜の決闘

 

志賀が総本山に滞在するのは、高校の夏休みの1カ月間。
その間、志賀は総本山内弟子達と厳しい稽古に明け暮れた。
志賀は総本山内弟子達に劣らない稽古内容で、指導する不動をもうならせた。

一方、相馬はというと、稽古にはまともに参加しなかった。
噂では山のふもとも繁華街で遊んでいるとのことだった。
そのことで相馬は、しょっちゅう山岸と喧嘩をしていた。
乱雑に散らかった相馬の部屋を志賀がきれいに片づけるのだが、すぐに相馬によって元の状態に戻った。

それでも志賀はたんたんと稽古に精を出した。

 

そして、志賀が総本山を去る前日。
夜の稽古を終えた志賀は、不動に話しかけた。

「不動師範」

「おう、志賀。明日で終わりだな。高校生とは思えない集中力だったな。来たころと比べて見違えたぞ」

「押忍、ありがとうございます」

志賀はうつむき、何か言いたそうにしている。

「何だ、何か用かな?」

「押忍、その、ひとつ、お、お願いがありまして」

「ん? 何だ、言ってみろ」

 

 

深夜、相馬が寮に戻ってくると、入口に志賀が立っていた。

「おう、お出迎えか?」

「相馬先輩!」

志賀はキっと相馬の目を見る。

「ぼ、僕と、勝負して下さい!」

「あ?」

「僕は、この1カ月間、自分の出来る限りの稽古を積みました。しかし、相馬先輩は稽古らしい稽古はしていない。そんなあなたが、僕に勝てますか?」

「なんだと・・・・・・」

相馬の目じりがヒクヒクと動く。

「見届けは不動師範にお願いしました。道場に来てください!」

「あん? 不動先輩が。全くガキが、恐れをしらねえな。世界王者にくだらねえことさせんなよ」

相馬は、ニヤリと笑う。

「まあ、不動先輩がいるんじゃ断る訳にはいかねえか。掃除やら何やらやってもらったしな。ふふ、見せてやるよ。天才の空手をな」

そう言うと相馬は部屋に向かった。

 

 

相馬が空手着で道場に入ると、不動と志賀が待っていた。

「キヨ、大変なことになったな。深夜の総本山道場で決闘とはな」

「いやいや、不動先輩こそ」

「ふ、高校生大会の連覇同士の戦い……見届けたいじゃないか」

「全日本3連覇王者が何言ってんスか」

歴代最強と謳われ、強さ、人格ともに優れた不動が、なんとなく相馬に肩入れしているのが、志賀には気に食わなかった。

「不動師範。相馬先輩。僕のわがままを聞いて下さってありがとうございます」

「うむ。試合は3分間の一本勝負でいいかな。大会ではないのでな。3分で決着が付かなければ引き分けだ」

「押忍」

「それでは始めるか。構えて、始めい!」

 

相馬と志賀の戦いが始まった。

志賀は前に出て下段を放つ。
が、相馬に軸足を蹴り刈られ後ろにのけぞった。
志賀は大きく構えを崩したが、相馬は攻めて来なかった。

「ふ、志賀あ。今、上段打ったら終わってたぞ」

「くっ」

志賀は、突きを中心に攻めるが、ことごとくカウンターで合わせられ、一向に技が決まらない。

「うおおおっ!」

気合も空しく時間が過ぎていく。そして、終了10秒前。

 

相馬の飛び前蹴りが志賀のあごに炸裂した。

 

志賀はそのまま尻もちをつき、頭が前に倒れた。

 

 

志賀が気が付くと、相馬の部屋に横になっていた。
すでに外は明るくなっていた。
志賀はぼうっとした状態で、少しずつ試合の内容を思い出していった。

「……くそ、完敗だ。飛び前蹴りだと? そんな大技をくらうとは……相馬先輩は、やろうと思えばいつでも僕を倒せた」

頬には涙がつたっていた。

「なぜだ。あんなに怠惰な男が、なぜ? ・・・・・・天才? いや、僕は認めない! そんなことはあってはならない。稽古もしない人が強いなんて。いつか、いつか必ず、相馬先輩に勝つ!」

 

 

志賀は不動や山岸らに別れを告げ、迎えに来た山下の車に乗り込んだ。

「おう、志賀。総本山はどうだった?」

「……いい勉強になりました」

「ほ。ずいぶんといい面になったじゃないか」

「……」
 

 

志賀らが去るとどこからともなく相馬が現れた。

「不動先輩。志賀の野郎は帰りましたか」

「キヨ。言いつけ通り、部屋まで志賀を運んだことは伏せておいたぞ」

「押忍、どうも。中途半端に恩を売ってもしょうがないですからね」

「ふ、素直じゃないな。お前も志賀も」

「ふふ、志賀は素直ですよ。素直過ぎて攻撃パターンが丸わかりですよ。あのままじゃ一生俺には勝てないっすね」

「どうかな。『男は三日会わずば括目して見よ』という言葉もあるぞ」

「不動先輩。俺は中卒なんすから難しい言葉は言わんで下さいよ」

「それはすまなかったな」

 


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